第26章 私の全て、永遠に貴方のものです✳︎不死川さん※微裏有
それらの文字列とはなぜが離れた所、手紙の端っこに
鏡台の一番下の引き出しの奥を見ろ
そう書かれていた。その場所は、なかなか手が伸びにくく、普段はほとんど物を入れていない場所だ。
手紙を鏡台に丁寧に置き、実弥さんが残した言葉の通り、一番下の引き出しを開けてみる。
…何も…入ってない?
おかしいと思い身を屈め、引き出しの奥の方を覗き込むと
「…あ…!」
長方形の小さな箱が入っているのが見えた。右手を突っ込み引き出しの中からその箱を取り出し、震える手を押さえながらその箱を開ける。
するとそこには
「…っ…なんで…」
綺麗な装飾が施された櫛が入っていた。
…櫛も、簪も…いらないって…言ったじゃん…
いつだったか、街でとても素敵な櫛を見つけ私がそれをじっと見ていると
"買ってやるから選べ"
実弥さんがそう言ってくれたことがあった。けれども私は、それを断った。この関係を始めたのも、望んだのも私だ。欲しいと言えなかったのは、心のどこかで、実弥さんに辛い別れを強いるうしろめたさのようなものを感じていたからなのかもしれない。
なのに実弥さんは、いつのまにか私に櫛を買っていてくれていたようだ。
嬉しくてたまらなかった。
でも
「…実弥さん…このお花…あんまり可愛くないです…っ…趣味…悪いです…っ…」
嬉しくてどうしようもないのに、櫛に描かれた花がどうにも可愛くない。
…確かこの花は…ホトトギス…だったような…
実弥さんが何故そんなに可愛くないホトトギスの花の櫛を選んだのか。その理由を私が知るのは、ずっと、ずっと先のこと。
落ち着きを取り戻し、みんなのいるところに戻ると
「…かっかぁ…とっとぉ…どこぉ…?」
壱弥が私のところにトテトテと駆け寄りながらそう尋ねてきた。その場に居合わせたみんな、心配げな顔をしながら私と壱弥のことを見守っている。
私は壱弥の視線に高さを合わせるように両膝をつき
「あのね壱弥。実弥さんは、どうしても遠くに行かなくちゃいけなくて…もう会えないの」
壱弥の手をぎゅっと握りながらそう言った。私のその言葉に、壱弥は大きく目を見開き
「…とっと…会えない…やっ!やぁだぁ!」
怒っているようにも、泣きそうにも見える表情でそう言った。