第6章 その音を守るよ-前編-【音好きシリーズ】
依然として私に抱きついている善逸をベリっと引き剥がし
「市松模様のきみ」
「はい!俺は竈門炭治郎です!」
「炭治郎くんね。炭治郎くん、邪魔しちゃってごめんね。私と善逸…とその猪頭の子はそっちに座ってるから、炎柱様と話があるならどうぞ」
そう言いながら善逸を座席に押しやり、ニコニコ笑いながら猪頭くんを手でちょいちょいと呼び寄せると"俺に命令すんな!"と言いながらも素直にこちらまで来てくれた。
「すみません。ありがとうございます…えっと…」
「柏木すずね。柏木でもすずねでも好きな方で呼んで」
「はい!すずねさん!」
炭治郎くんが炎柱様の方を向くと
「ここに座るといい」
と、炎柱様が自分の隣の空いている席をポンポンと叩き炭治郎くんに座るよう示していた。
正面に善逸と猪頭くん…改め伊之助くんが並んで座っており、私はその向かいに座った。
「善逸の耳には何か変わった音って聞こえる?」
「変わった音?ここ列車の音が凄くて中々人の話し声とか他の音は聞こえにくいかなぁ」
「…やっぱりそうだよね」
残念ながら私も同じだった。車両の半ばから乗車し、この車両に着くまでの間、神経を張り巡らせたがはっきりしたことはわからなかった。
「なんだぁ?お前も耳よし丸と同じで耳がよく聞こえんのか?」
耳よし丸とは誰のことだ。
そう思ったものの、この状況から考えると耳よし丸とは善逸の事を指し示すんだろうと思い至る。
「…伊之助くん…面白い感性の持ち主だね」
「あぁん!?どういう意味だ!?俺様をバカにしてんのか!?」
「おい馬鹿!すずね姉ちゃんに絡むな!」
「うるせぇ黙れ!」
そんなやりとりを面白いなと思う傍ら、耳に神経を集中し、何か違和感がないか目を瞑り神経を張り巡らせた。
…だめだ。この車両はともかく、ほかの車両の様子はわからない。ひとつひとつ歩いて回るしかなさそうだ。
そう結論づけた私は
「ちょっと、行ってくるね」
「え?すずね姉ちゃん?」
そう言って立ち上がった私に
「柏木どうかしたか?」
炭治郎くんとの話を終えたであろう炎柱様がそう問うた。
「…列車の音が大きすぎて、他の車両の音が拾えないんです。だから一つ一つ回って違和感がないか確かめてこようと」