第6章 その音を守るよ-前編-【音好きシリーズ】
"美味いっ!"
「…っ!」
どこからともなく聞こえた叫び声にビクッと肩が揺れた。
「…向こうの車両か」
一体何を食べているんだろう。美味しいのはわかるけど、車内であんな大声を出すのは感心できない。
そう思いはしたものの、やはり以前と違って"嫌悪感"の様なものは一切感じない。どちらかと言えば"仕方ない人"と若干の可愛さを感じる程であった。
考える必要もなく、私は進もうとしていた方向とは逆の方向に向きを変え、ゆっくりと歩みを進めた。その間に何度も聞こえてくる
"美味い"
に、思わず苦笑いがこぼれる。
車両の扉を開け、目に入ってきたのは
「美味い!」
と嬉しそうにお弁当らしきものを食べている炎柱様。そして、
「あのぅ…煉獄さん」
困った様子で炎柱様に声を掛けている市松模様の羽織を着た隊士と、
「美味い!」
その後ろに隠れる様に立っている久方ぶりに見る弟弟子の姿が。
「美味い!」
最後の一声!と言わんばかりに声を張り上げた炎柱様は、市松模様の羽織を着た隊士の方をクルリと振り返った。
私はそんな3人…と猪頭の非常に変わった風貌の隊士に近づく。
「炎柱様。ここは列車の中です。そんなに大きな声で美味い美味い言っていると、周りの方達にご迷惑ですよ」
炎柱様、市松模様の羽織を着た隊士、そして善逸の顔が一斉に私の方へと向いた。
「あ゛ーーー!すずね姉ちゃーーーん!久しぶりーー!会いたかったよーーー!」
そう言って善逸は、ビュンッと私の方に一瞬で近づいてくると、私に無遠慮に抱きついてくる。
「善逸久しぶり。相変わらずの汚い高音だね」
ニコリと微笑みながら私がそう言うと、
「辛辣ぅ!でもそんなすずね姉ちゃん好き!懐かしい音がするなぁと思ってたんだよぉ!」
と相変わらずの様子で思わずその黄色い頭を撫でくりまわしてしまった。
「柏木!待っていた!それにしても、君のそんな姿を見るのは初めてだ。その黄色い少年とは知り合いなのか?」
そう私に問うた炎柱様の顔には"極めて不思議だ"と書いてある。
「善逸は弟弟子なので。うるさいと言えばうるさいですけど、それ以上に可愛いので全然平気です!」
「嫌だもう!すずね姉ちゃんったら…嬉しすぎ!」