第1章 頭に響く無駄に大きい声【音好きシリーズ】
「…そう言われてもなぁ」
幼い頃に刷り込まれた男性に対する不信感は、そう簡単に拭えるものじゃない。私だって出来るものならなんとかした方が良いとは思っている。それでもどうしようもないのだから仕方ない。
そう思いながら自分の掌をじっと見つめていると、
「はい。これ、持って行って。使ったら補充するから必ず言うのよ?」
そう言って雛鶴さんは私に小さな黒い弾が入った袋を渡してくれた。
「…こんなに?ありがとうございます」
マキオさんは私の肩にポンと手を置き、
「天元様にあんたが使いやすいように改良を頼まれたの。前より使いやすいと思うから、いざとなったら戸惑わず使いなさいね」
と耳元でこっそりと言った。
「天元様は素直じゃないだけで、すずねちゃんの事をすごく可愛がってるんですよ!だから鬼を倒して、ちゃんと帰ってきてくださいね」
一方須磨さんは普段の声量でそんな事を言ったものだから、
"おい須磨!余計なことを言うな!"
と遠くの方から天元さんの声が聞こえ、思わず私の頬は緩んでしまうのだった。
最初はあんなにも継子になるのが嫌だったのに。今はもうこの家が私にとって、大切な帰ってくるべき場所になってしまった。
「みなさんありがとうございます。それでは、少し早いですが任務に行ってきます!」
「「「いってらっしゃい」」」
私は勢いよく立ち上がり、荷物を手に取ると駆け足で玄関へと向かった。
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待ち合わせの甘味屋には徒歩で2時間ほどで到着した。まだ炎柱様との待ち合わせ時間には余裕があるはず。
「すみませーん。餡子のお団子二本と、お抹茶をひとつお願いします」
「はぁい。ただいま」
大きな傘の下にある長椅子に腰掛け、注文したお団子とお抹茶が来るのを待っていると、ふと私の頭に炎柱様と初めて任務で会った日に言われた言葉が頭に蘇る。
"君は立ち回りがとても上手い!だが力が弱すぎる!もっと筋肉をつけると良い!頸の硬い鬼にあったとき、それではひとりで対処できない!"
初対面の挨拶もなしに、頭に響くほどの大声でそう言われ、私の中で炎柱様は"苦手"な分類に当てはめられたのだ。
9人いる柱の中で、隊士からの人気と信頼の厚い炎柱様。それは十分に理解しているが、いかんせん私にとっては最も苦手な人種である。