第26章 私の全て、永遠に貴方のものです✳︎不死川さん※微裏有
それからあっという間に時間は流れ、私は出産のときを迎えた。
感じたことのない内側から来る痛みに、自分がこのままどうにかなってしまうんじゃないかと何度も思った。けれども私よりも
”すずね…すずね…痛ェよなァ…頑張ってくれェ…”
そう言って私の手をぎゅっと握る実弥さんの方がよっぽど苦しそうで、
”…っ全…然…痛く…ありま…せん…!”
そんなあからさまな嘘も平気で言えた。
そして
うんぎゃぁ
うんぎゃぁ
うんぎゃぁ
産まれたばかりの元気な産声を上げたわが子を抱く私に
”…っ…ありがとうなァ…すずね…”
実弥さんは、涙を流しながらそう言ってくれた。
私はその時の実弥さんの顔を、生涯忘れることはなかった。
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人生最高の幸せと、人生最高の痛みがいっぺんにやって来たあの日から1か月経過した頃。
ふえ゛ぇぇぇぇぇん!
今日も今日とて朝から絶好調の壱弥の泣き声が、台所でお茶請けの準備をしている私のところまで聞こえて来た。
「あれぇ?もう起きちゃったのぉ?お母さん、今ちょっと手が離せなくてねぇー!ちょと待っててねぇー!」
姿の見えない壱弥に向けそう叫んでいると、それまで激しく泣いていた壱弥の泣き声がぴたりと止まった。泣き止んだ理由。そんなのは考えなくてもすぐにわかる。
「すずね…壱弥、腹減ってるみたいだぜェ」
そう言いながら、壱弥をもう本当に宝物のように大事そうに両腕に収めた実弥さんがやって来た。そのあまりにも尊い姿に
…やだ…眼福…
なんて呑気に思っていたものの、壱弥は私から発せられている匂いに空腹感を思い出してしまったのか
「ふえ゛ぇぇぇぇぇん」
再び泣き出してしまう。私は慌てて手を洗い
「…さっきもあげたばっかりな気がするんだけどねぇ?壱弥はどうしてそんなにも食いしん坊さんなのかなぁ?ん?」
そんなことを言いながらも、自分を求める(求めているのは乳だが)存在に、この上ない愛おしさを感じていた。