第6章 その音を守るよ-前編-【音好きシリーズ】
そう言って私の肩にポンとその左手を無遠慮に置いた。
強い意志のこもった言葉に天元さんの顔を見ると、ふざけている様子は一切なく、その表情は真剣そのものだ。
「本当なら俺がお前の代わりに行きたいところだが、俺には俺の任務がある。俺よりはるかに弱いお前にこんな事は言いたくねぇ。だが今回の任務、十二鬼月、最悪上弦の仕業かもしれねぇって話だ。だからお前が、煉獄の力になれ」
「…でも…天元さん知ってるでしょう?私、そこまで強くありません。私が出来るのは…補助的役割ばかりで…相手が上弦だとしたら…私が…炎柱様の助けになることなんて…出来るんでしょうか…?」
炎柱様の助けになりたい。心からそう思う。でも、自信がない。私は力が弱くて、取り柄といえばこの音を聞き分ける能力と、それを頼りに相手の隙をついて攻撃をするくらいだ。
そう言って自分の日輪刀を手に持ちジッと眺める私に
「お前は何にもわかってねぇなぁ」
と天元さんは呆れた声で言った。
"わかっていない"
一体私が何をわかっていないと言うのか。
「俺が、何のためにお前に散々"剣以外のこと"を教えてきたと思う」
稽古をつけてもらうようになってから、天元さんに教わったことと言えば…
クナイの投げ方(それも確実且つ正確に的に当てる)
火薬の扱い方(投げるタイミング爆ぜる範囲の把握)
応急処置解毒止血
体のさばき方
わかってはいたが、鬼殺とは一見関係なく思えることばかり。けれども自分にとても役立つことばかりだった。
「誰もお前が自分で頸を切ることなんて期待しちゃいねぇ。お館様だってそれを承知でお前を俺のところに寄越したんだ」
「…え?そうなんですか…?」
なんと。それは初耳だ。
「お前、自分じゃ分かってねぇだろうから教えてやるよ。お前が同行してる任務は、怪我人も殆ど出ねえし、成功率も高い」
なんと。なんと。それも初耳だ。
「お前、俺のところに来る前からそんな感じだったらしいぜ?それをより確実にするため、お前に知識と能力を授けるよう俺にお前を鍛えさせたってわけだ」
なんと。なんと。なんと。
「頸を切ってない割にお前の階級が高いのはそう言う理由だ。頸を切る才能はなくても、お前にはそれ以上の能力がある。派手に自信を持て!」
天元さんはそう言うと、わしゃわしゃと私の頭を撫でくり回した。