第6章 その音を守るよ-前編-【音好きシリーズ】
天元さんは胡座をかきながら顎に手を当て、目を瞑りながらとても真剣に考えている様子だ。邪魔をしては悪いなと思った私は天元さんが喋り出すのを大人しく待った。
「…鬼殺に関してとにかく真面目だ。俺からすれば危うい程に」
目を開けた天元さんは、眉間に皺を寄せながらそう言った。
「危うい…ですか?」
私は何故、天元さんがそんな風に言うのか理解ができなかった。意志の強そうな、そしてそれに負けないくらい屈強そうな身体をもつ炎柱様のどこが危ういと言うのか。
「あいつが産まれた煉獄家は誰もが知る代々炎柱を排出する名家。周りからの期待も高ければ、自分自身に課すものも高い。おまけに今や飲んだくれの父親と、歳の離れた弟を支える一家の大黒柱だ」
「…お母様はいないんですか?」
「あいつの母親は、あいつがまだ小さい時に病気で死んだって本人が前に言ってたぜ」
「…そう…なんですか」
初耳だった。ずっと、炎柱様はなんの苦労もなく恵まれた環境で育ってきたのだと思っていた。
「普通の人間だったら、もっとやさぐれたり投げやりになったりする。それが普通だ。だがあいつは違う。1人の人間としての立場よりも、"鬼殺隊の炎柱"としての立場を優先する。例えそれが誰よりも大事にしている弟を置いて死ぬ事になったとしてもだ」
「…っ…」
胸が苦しくなった。
「それが煉獄杏寿郎だ。…俺には到底真似できねぇ」
そして、今までそんな事を知らずに炎柱様のことを苦手だと、怖いと思っていた自分がとても恥ずかしくなった。
「何でだろうな?俺ほどでないとは言え、あれだけの色男が、女も知らず、ただ真面目に刀ばっかり振ってるんだぜ?嫁になりたい女なんて掃いて捨てるほどいるだろうに。同じ男として俺は心配だ!」
話がおかしな方向に向かっている気もするが、天元さんから見ても炎柱様がいかに出来た人間であるかは十分わかった。
「…私もきっと、天元さんと一緒であんな風には生きられないと思います」
「心配すんな。あんな生き方出来んのはあいつ位しかいねぇよ。…っていうか、みんながあんなクソ真面目だったら窮屈でしょうがねぇ」
周りが炎柱様だらけの様子でも想像したのか、天元さんは眉間に皺を寄せとても嫌そうな顔をしている。けれども
「だがな、俺はあいつの事をすこぶる気に入ってる。だから頼む。あいつを…絶対に死なせるな」