第25章 私をあなたの特別に✳︎宇髄さん
重い足を引きずり、私はなんとか家へと帰りついた。
結局私は、天元さんを取り巻くたくさんの女の人の中の一人になることも、ましてやその中で”特別”な存在にもなれやしなかった。
…こんなこと、もうやめよう。
そう思いメッセージアプリを起動したその時
ぺっぺこ
「…っ!」
まるでタイミングでも見計らったかのように天元さんからメッセージが送られてきた。ドキドキしながらそのメッセージをタップすると
”うどん食いたい。明日いつもの時間に来て”
送られてきたのはたったそれだけだった。いつもの私ならすぐ
”はい!お夕飯、何食べたいですか?”
そう返事を送っていた。けれども
”もういけません。夢みたいに楽しい時間をありがとうございました。さようなら”
それだけ送ると、すぐに天元さんからのメッセージを拒否設定に変更した。
私は結局、表面上では大勢の中の一人でいいと思いながら、心の底で天元さんの特別になりたいとそう思っていた。けれども、地味で平凡で、真面目だけが取り柄の私では、物語の主人公の隣にいるような天元さんの隣に立つことは出来ない。
「……天元さんの特別に…なりたかった……な…」
ツーっと頬を何かが伝っていくのを感じ、そこに触れてみると、いつのまに出てしまっていたのかそれは私の目から零れ落ちた涙だった。
カバンの中から今日買ったお出汁を取り出し
私の気持ちも…こんな風に簡単に捨てられたらいいのに
そんなことを考えながら、天元さんの為にと買ったそれをキッチンのごみ箱へと捨てた。
翌週の金曜日。
仕事を終えた私は、気晴らしにショッピングモールに1人で買い物に来ていた。
あの日天元さんにさよならを告げてからも、会っていたのは金曜の夜と土曜の夕方までだったし、さほど生活に変わりはなかった。それでもやはり、期間こそそんなに長くはなかったものの、あんなにも好きだった…いや、今も好きだと思う相手と会えなくなったことはとても寂しく、なんだか魔法が解けてしまったシンデレラにでもなった気分だった。