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鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第25章 私をあなたの特別に✳︎宇髄さん


美容室を出た私は、天元さんのために作るうどん用に、素朴で美味しいとSNSで評判のお出汁を買いにデパ地下の食品コーナーに行き、無事に目的のものを手に入れ、ほくほくとした気持ちのまま駅に向かっていた。

信号が赤になり横断歩道の前で立ち止まり


…自分から…連絡してみようかな。


そんなことを考えながら青信号になるのを待っていると。


「…っ…!」


横断歩道の向こう側、私が今まさに向かっている方向にいつもの部屋着姿とは似ても似つかない、きっちりとスーツを着込んだ天元さんの姿があった。そしてその隣には、女の私でも見とれてしまうような綺麗な女性が天元さんの腕にぴったりとその豊満な胸をくっつけるようにして立っていた。


自分以外の女性の影を感じることなんて当たり前の事だったし、天元さんと会えるのであればそれでもいいと思っていた。それでもこうして誰かといる姿を目の当たりにするのは初めての出来事だったし、何よりも


…すごい…綺麗な人…私と…全然違う。


あまりの自分との落差に


”お前なんかがうぬぼれるな”


そう言われた気がした。

信号が青に変わり、周りの人は歩き始めたというのに、私の足はまるで地面に根っこでも生えたかのよう動いてくれない。

そんなことをしていれば、どうしても人の目についてしまうわけで


パチリ


正面から歩いてきた天元さんと視線がかち合った。私と目が合った天元さんは一瞬反応をしたように見えたが、すぐにスッと視線を外されてしまう。

更に


「…ねぇ天元。あの子、天元の知り合い?めっちゃ天元のこと見てるけど?」


私の視線に気が付いた女性が、天元さんに甘えるような口調でそう尋ねたのが聞こえてきた。




「…知るわけないじゃん、あんな地味な女」



その言葉が、私の心を大きくえぐった。


「だよねぇ。天元があんな子相手にするわけないか。あ、私たちがあんまりにもお似合いだから見とれちゃったのかもね!」

「そうかもな」

「もう!つれないんだからぁ!」


そんな会話を繰り広げながら、誰もが振り返るようなお似合いの2人は私の隣を颯爽と通り過ぎて行った。




「…馬鹿だなぁ…私」




情けなくて涙すら出てこなかった。


…そもそも、女の人と二人でいるのを見て…泣く権利のある立場でもないか。

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