第25章 私をあなたの特別に✳︎宇髄さん
「そんなこと…ないよ」
「そうかよ。んじゃあ後でアプリの方から連絡先、送っておくわ」
「…絶対?」
「何?俺が嘘つくとか思ってんの」
「…少し」
「んだよ。失礼な奴」
「…待ってるから。……あ、最後に、おトイレ借りて行っても良いかな?」
「この状況で駄目なんて言うと思うか?好きなだけ入っていけ」
「…一度でいいし。それじゃあお借りします」
手に持っていたカバンやら買い物袋をいったん置かせてもらい、私はおトイレに向かった。
おトイレお済ませ、洗面所で手を洗わせてもらい、ついでにたいして崩れていない髪の毛を整える。その時ふと、自分の耳たぶに鎮座している空色のピアスが目に留まった。
…これを忘れたらまたここに…来られるかもしれない。
ズルい考えであることは百も承知だ。それでも私はどうしてもまた天元さんに会いたくて、左耳からピアスを外し、洗面台の目に留まるところにそれを置いた。
そして何でもない顔をしながらリビングに戻り、荷物をもって玄関へと向かった。天元さんは、玄関まで見送ってくれるようで、私の後を着いてきてくれていた。
昨日買った靴を履き、ドアノブに手を掛け
「それじゃあ…お邪魔しました」
そう言いながら振り返る。
「ああ。じゃあな」
私は扉を開き、玄関の外に出た。そしてもう間もなく扉が閉まろうとするところまで来た時
ガッ
天元さんがそれが閉まってしまうのを手で阻止し、隙間から顔を覗かせ
「言い忘れた。うどん、旨かった。また…作って」
そう言った。
「…っ…はい!次は…もっとおいしいの作るから!」
「おう、期待してる。じゃあな」
そう言い終えると玄関から手を離し
ガチャン
今度こそ扉が閉まった。
”旨かった”
”また作って”
”期待してる”
それらの言葉がどうしようもないほどに嬉しくて、私は夢心地のまま最寄りのタクシー乗り場へと向かったのだった。