第25章 私をあなたの特別に✳︎宇髄さん
すぅ…すぅ
安らかな寝息が後ろから聞こえてきているはずなのに
…腕の力…全然弱まらない
私を抱きかかえる腕の強さは全く緩む気配を見せず、まるで縋りつかれているようなそんな感覚だった。
ずっと探していた…愛していた人に忘れられてるって…どんな感覚なんだろう。
前世の記憶を持ち合わせていない、そしてそこまで誰かに恋焦がれたことのない私には、天元さんの気持ちを理解することなんて出来ないだろう。それでも
私が…その寂しさを埋めてあげられたらな…
そんなことを考えずにはいられなかった。
「…ん…身体…痛い」
いつの間に眠りについてしまっていたのか、目が覚めるとすっかり朝になっていた。目が覚めて一番最初に感じたのは、天元さんに抱き枕にされたままずっと寝ていたせいか、寝返りをうつことが出来ず、がちがちに固まってしまった身体の痛みだった。
…我ながら、こんな状況でも寝れてしまうとは…私って、自分で思っていたよりも図太いタイプなのかもしれない。
そんなことを考えていると
ぐぅぅぅ
腹の虫が騒ぎ出し、
…お腹すいた
昨夜から自分がまともな食事と取っていないことを思い出す。私は常々朝食はきちんと食べる派だ。人のお家に来てまでそんな…とは思うものの、空腹にはどうにも勝つことが出来ず、抱きしめられ、身動きを取れないまま
「天元さん。天元さん。…おはようございます」
未だに安らかな寝息を立てている天元さんに、恐る恐る声を掛けさせてもらった。
「…なんだよ。まだ寝みぃんだけど」
意外にもこの1回で、そしてはっきりとした言葉が背後から聞こえ、自分から起こそうと声を掛けはしたものの、その反応の速さに驚いてしまう。
「おはようございます」
「さっき聞いたわ。…はよう」
「あの…私、お腹が空いてしまって…」
意中の相手の家に泊まらせてもらい、目覚めの一番に”腹が減った”と伝えるのは恥ずかしいような気もしたが、空腹を我慢しすぎるとどうにも気持ち悪くなる体質なので放って置くわけにもいかず、私はもごもごも天元さんにそう伝えた。