第25章 私をあなたの特別に✳︎宇髄さん
直接会って10時間。私はこの10時間で宇髄さんに恋をして、そして失恋をした。けれども、どうしてか悲しいとは思わなかった。むしろ、こんな自分でも知り得なかった自分を知ることが出来、喜びに近い感情を抱いていた。
私がそんな風に自分の気持ちを噛みしめていると
「俺は、あいつらのこと、ずっと探してた。当たり前にまた4人一緒に暮らせると思ってた。だが、そう思ってたのは俺だけだった」
「…え?」
宇髄さんは、ギリギリとワイングラスが割れてしまんじゃないかと心配になるほど強く握りしめ、なんでもないような口調でそう言った。
「個展の主催者の隣、左目の下に泣き黒子がある凄え良い女。あれ、俺の昔の嫁」
「…そうだったんですね」
挨拶のなかで、”隣にいる私の妻が”と、主催者の男性が口にしていたので、”綺麗な奥さんがいるんだな”位な気持ちでちらりと顔を見るくらいはしていた。
「先に見つけたもう2人の嫁も、恋人がいるは婚約者がいるはで俺の事探しているそぶりも無い…ていうか覚えてすらないわけ。最後の一人、雛鶴だけはもしかしたらと思ってたが…無駄足だった。っていうか結婚してる時点でわかっちゃいたんだけどな。だっせぇ悪あがきしちまったわけ」
宇髄さんはそう言ってボトルに残っていたワインをすべてグラスに注ぎ入れると、グイッと一気に飲み干した。そんな様子があまりにも辛くて、切なくて、私は気が付くと宇髄さんの大きな背中をさすっていた。
宇髄さんはちらりと横目で私の事を見ると
「…何?一丁前に慰めてくれんの?」
すがるような、それでいて男の色気を孕んだ瞳をして言った。
「…そうさせて欲しいって…思っても…良いですか?」
私はその瞳をじっと見つめ返す。
「言っとくけど、俺、めちゃめちゃ女いるぜ?冷蔵庫見たろ?」
「…はい。女の子が好きそうなお酒、常に準備してる感じですよね?」
「まぁな。で、良い大人だ。自宅に連れ込んで、男と女が2人で酒飲んだら、それだけで終わるわけねえってわかるよな?」
「…はい。わかってます」
私の返事を聞いた宇髄さんは、私の手からチューハイの缶を取り、テーブルの上に置いた。そして
トサッ
「なら、すずねもそれをわかった上でここにいるって解釈でいいな?」
私をソファーに押し倒しながらそう言った。