第25章 私をあなたの特別に✳︎宇髄さん
「…あぁ…なんだか食い逃げでもした気分です」
宇髄さんに手を引かれ、大人しくその後についてはいくものの、お金を支払わずにヘアカットとカラーをしてもらってしまった罪悪感に私は肩をズンと落としていた。
「あいつもああ言ってたし、あいつには今まで散々迷惑掛けられてきたからいいんだよ!」
「でもそれは宇髄さんがですよね?私は一切その掛けられてきた迷惑とは無関係じゃないですか」
「っとにくそ真面目な女。ほら、次はここだ」
「え?」
そう言っていつの間にやら連れてこられたのは、こ洒落た洋服屋さんの前だった。
…今度は…洋服?でも…こんな雰囲気の場所…入ったことないし…。
ショーウィンドーに飾られている洋服は、明らかに私が持っている服のタイプとは違うフェミニンな雰囲気なものばかり。基本的に、綺麗目なパンツスタイルが多い私には気おくれしてしまいそうなものだった。
「…っあの!私にはこんなっ「それ止めろ」…え?」
宇髄さんは私の言葉を遮ると、横に並んでいた位置からぐるりと私の正面に回り、身を屈め、私と視線の高さを合わせじぃっと私の事を見つめてくる。
ドキッ
その心まで見透かしてきそうな視線に、私の胸が大きく波打った。
「お前みたいに”自分なんか”とか言って努力を怠る女、見ててイラつくんだよ。磨けば光るもんを放置して、汚く見せてんのはお前自身だろ?下らねえこと言ってる暇あったら少しは雑誌やらネットやら見て努力しろ」
吐かれた言葉は、決して優しいものなんかじゃないのに、赤の他人に近い私の事を真剣に考えて言っているという言葉だということが伝わり、少しも嫌な気持ちにはならなかった。
「…どうして…そんな風に言ってくれるんですか…?」
「どうしてだぁ?理由なんか別にねえよ。…まぁ強いて言えば、地味なもんが気に入らねぇってだけだな。大体な、その髪型と服が合ってねぇんだよ。美的センスに欠けてイライラする」
「…っふふ…そうですか」
今までの人生において、人を不快にさせないように、役に立てるようにと生きてきた自分にとって、ここまでハッキリと”地味”だとか”イライラする”だとか言われる経験は初めての事で、面白いことなんて1つも言われていないというのに、何故か笑いがこみ上げてきてしまう。