第25章 私をあなたの特別に✳︎宇髄さん
当たり前のように私の肩を抱きながら歩いて行く祭りの神に
「…っあの!せめて自己紹介を…」
私がそう言うと、ピタリと足を止め身を屈めながら私の目をジッと覗き込み
「宇髄天元」
そう名乗った。
「…柏木すずね…です」
それに倣い私が自分の名を名乗ると
「すずねね!良い名前じゃん!ほら急ぐぜ!すずね」
「…っ…はい」
今まで自分の人生において最も整った顔立ちの人間に微笑みかけれ
…イケメンってそれだけで得だなぁ。
そんなことを考えながら、肩に回された腕を振り解くことなく隣を歩いた。
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「…素敵な絵」
私と祭りの神、もとい宇髄さんはマッチングアプリで
”趣味・アート”
という事からマッチングし、メッセージをやり取りするようになった。そこから最近話題になっているアーティストの個展に一緒に行ってほしいと誘われ、こうして一緒に個展を回っている。
私は雲の絵が好きだし、このアーティストの描く絵のテイストが好きだ。けれども。
「……」
この個展に一緒に行きたいと誘ってきたのは宇髄さんのはずなのに、隣で絵を見ている宇髄さんはちっとも楽しそうじゃないどころか
…どうして…そんな顔をしてるの?
辛そうな表情で、その絵を睨むように見ていた。
その時
”これから今回の個展の主催者による挨拶がございます。お時間ございます方はどうぞ中央ホールまでお越しくださいませ”
そんな館内放送が聞こえてきた。
ぎゅっ
私の肩を抱く宇髄さんの手に少し力が加わり
どうかしたのかな?
疑問に思った私が宇髄さんの顔を見上げると
「挨拶、見に行ってもいいか?」
そう尋ねられる。
「…私は、別にいいですけど」
はた目から見て、宇髄さんが主催者の挨拶を見たいようには見えなかった。けれども私個人としては主催者が何を話すのか興味もあったし、今日初めて直接会った宇髄さんの事情を聞き出そうとも思わず
「行くぞ」
黙って神妙な面持ちの宇髄さんについて行った。