第5章 その姿は俺だけの前で【暖和】
「うむ。すずねの言いたいことも、何故そのような隊服を着ているかも理解した」
杏寿郎さんの表情からも、声色からも怒っている様子は一切感じない。
「俺がすぐ烏を飛ばし、正規の物も持ってくるように指示しよう」
「…っ本当ですか!?」
杏寿郎さんのその言葉が嬉しくて、私はガバリとその首に両腕を回し抱きついた。
「ありがとうございます!この隊服、本当に恥ずかしいし心許ないし…もう二度と着ません!今すぐ捨て「それはダメだ!」…え?」
それはダメだ
杏寿郎さんの言っている意味が一瞬理解できず、杏寿郎さんに抱きついていた身体を離した私は、ポカンとその顔を見つめた。
「他の男にすずねのその姿を見られるのは耐えられない!だが俺はもっとその姿が見たい!」
杏寿郎さんは一体、何を言っているのだろうか。
「先程は非常に腹が立ち、恥ずかしながら自分よりも下のものたちに向かい酷い態度をとってしまった!部下を大事にする立場にあるべきなのに不甲斐ない。あの隊士が言った通り、君の脚は程よく筋肉が付いていて非常に美しい!触り心地も極めて良かった!俺にもっとその素晴らしい脚を見せて欲しい」
程よく筋肉が付いていて非常に美しい
触り心地も極めて良かった
もっとその素晴らしい脚を見せて欲しい
ボボボボッと火がついたように私の頬が急激に熱くなった。
「む?どうした?頬が真っ赤だ」
「…っどうしたもこうしたもありません!どうして杏寿郎さんはそうやって…たまに意味のわからないことを言い出すんですか!?」
杏寿郎さんは首を傾げ
「俺の話のどこがわからない?脚を見せてくれと言っているだけだ」
と、いつもと変わらない端正な顔を私に向けてくる。だが言っていることは極めて馬鹿げている。
「っ嫌ですよ!だいたい!みんなして何なんですか!?確かに私の足腰はしっかりしています!自分でも自覚してます!だからスカートじゃなくてこの隊服なわけですよね?人が気にしないようにしているのにどうしてみんなしてツンツンツンツン私の痛いところを突いて来るんですか!?」
そう言って絶対に見せません!と言わんばかりに自分の羽織を(正確に言えばこれも杏寿郎さんのものなのだが)腰にギュッと巻きつけた。
「何をそんなに腹を立てているんだ?皆君の脚が魅力的だと褒めているのであろう」