第5章 その姿は俺だけの前で【暖和】
杏寿郎さんがあまりにも大真面目にそう言って来るものだから、自分がおかしいのかも…と思い出して来るからとても不思議だ。
「…本当に…そう思いますか?太くて…女らしくないと…思いませんか?」
そう問う私の肩を杏寿郎さんがガシッとその手で掴み
「すずねの脚が女らしくない?何を言っている。君の脚ほど魅力を感じる脚を俺は今まで見たことがない」
極めて真面目な顔で言った。その場にいれば突っ込んでくれる千寿郎さんがいない今、愛する人に意味はよくわからないものの甘い言葉を囁かれ、段々と私の感覚も杏寿郎さんに引っ張られおかしくなって行く。
「…本当ですか?華奢とはほど遠くて…がっしりしていて…嫌ではありませんか?」
「うむ!俺はすずねのその美しい脚も含め、君を心より愛おしく思っている」
杏寿郎さんは私の目を真っ直ぐと見据えそう言った。
心の奥底に沈めていた私のコンプレックスが、杏寿郎さんのその言葉によってあっという間に解消されて行く。杏寿郎さんはグイッと私を引き寄せ、ギュッと強く抱きしめると
「だから頼む。君のその魅力的な隊服姿…俺だけに見せて欲しい」
耳元で甘く囁いた。
「……はい」
私は杏寿郎さんの甘い言葉で催眠術にかかってしまったかのように、気づくと腰に巻き付けていた羽織をハラリと解いていた。
「そのまま立ち上がってくれ」
その言葉にも不思議と素直に従ってしまい、私は何の躊躇を感じることなく、しゃがんだ杏寿郎さんの前に立ち上がる。
杏寿郎さんは目の前に晒された私の脚を少しの遠慮もなくジーッと見つめている。
「やはり思っていた通り素敵だ」
そう言って私の脚にギュッと杏寿郎さんが抱きついたその時、
「兄上?いつの間にお戻りになったんです……」
襖を開けた千寿郎さんと、私の目がはたと合った。
「……失礼しました」
千寿郎さんはそう言って、"自分は何も見ていません"と言わんばかりに開けた襖を閉めた。
完全に2人の世界に入っていた杏寿郎さんと私は動くことが出来ない。
「…よもや…千寿郎に見られてしまうとは…兄として…不甲斐ない」
耳を真っ赤にしながらそう言った杏寿郎さんと、
「…穴…誰か…今すぐ入れる…穴を下さい…」
同じく首まで真っ赤になった私は、しばらく千寿郎さんの元へ行くことが出来なかった。
完