第24章 私の全て、余す事なくもらってください✳︎不死川さん※裏表現有
私のその反応がよっぽど意外だったのか実弥さんは目を丸くし、口を開けたままポカンとしている。
あ、その顔凄く可愛い。
私の心をくすぐる実弥さんの可愛らしい表情に、一瞬思考を持っていかれたが、すぐにまた怒りと哀しみの感情が復活し
「…っ馬鹿!馬鹿!馬鹿ぁぁあ!」
私はそれこそ馬鹿の一つ覚えのように馬鹿馬鹿何度も言いながら
「…っ…!」
先ほど一人路地裏の陰で泣いていた小夏ちゃんに負けない位、ぼろぼろと涙を流していた。
そんな私の様子を実弥さんは依然として目を丸くしながら見ていたものの
”何あれ痴話げんか?”
”いい大人がみっともない”
そんな会話と、好奇の目が私たちに向きつつあると気が付いた実弥さんは
「…チッ」
一度大きく舌打ちをし、フッと私の視界からいなくなった。そして
「…っひゃぁ!?」
私を俵抱きにし
「部屋に戻るぞォ」
「えっ…ちょ…」
目にも留まらぬ速さで旅館へと飛ぶように走り出した。
実弥さんは寝泊りさせてもらっている旅館の離れに外壁を飛び越え侵入し、部屋へと続く中庭にペイっと自分の履いている草履と、私の履いている草履を投げ捨てるように脱ぎ去った。
そして、怒っていた割には丁寧に座布団の上に降ろされ
「ちょっと待っとけェ」
そう言うや否や部屋を出て行ってしまった。
部屋に一人取り残されてからも、最近の事、そして昨晩実弥さんから明確な拒絶を受けてしまったことを思い出し、私はぐずぐずと泣き続けた。
温かいお茶の入った湯飲みを手に持ち戻って来た実弥さんは
「茶でも飲んで少し落ち着けェ」
そう言いながらテーブルに湯飲みを置き、私の正面にドスンと腰かけた。
目の前で恋人(のはず)がこんなにも泣いているというのに、やけに落ち着いたその様子が無性に腹立たしかった。