第5章 その姿は俺だけの前で【暖和】
代々受け継がれている炎柱の羽織と私の脚を同列に並べないで欲しい。
そう思いはしたものの、今の杏寿郎さんの様子からして、それを口に出したら絶対に怒られると予想できたので、心の中で思うのみに留めた。
杏寿郎さんの視線が私から、チラリと未だに私の後ろにいると思われる隊士の方に移ると
「…ッひ!」
と声が漏れ出したのが聞こえた。よっぽど杏寿郎さんの視線が怖かったのか、その中の1人が
「見てません!見てません!柏木さんの程よく肉付きがよくて綺麗な脚なんて少しも見てません!」
と、明らかな墓穴を自らせっせと掘る。
いやもうそれは見たって言ってるのと一緒だから。と言うかさっきの鬼といい、この人といい、人が密かに気にしていることを言わないで欲しい。
羞恥なのか怒りなのか、自分でも分からない感情で腕をプルプルと震わせながら心の中で突っ込む。
自分の脚がわりとしっかりしている自覚はあった。でも炎の呼吸の使い手なのだからそれは仕方がないことだし、呼吸を使いこなせる身体である証拠なのだからととっくの昔に諦めた。それでも改めて他人に指摘されてしまうと、流石の私も堪えるものがある。
他の3人も"おい!"だとか"ばか!"だとか言いながら、懸命に口を滑らせた仲間の口を塞ごうとしているようだが残念ながらもう後の祭り。
杏寿郎さんから漏れ出す禍々しいオーラに恐る恐る顔をあげると
「…っ!」
額に青筋をたてながら満面の笑みを浮かべていた。笑顔なのに怖い。いや笑顔だからこそ余計怖い。
「頼む。この子のため…いや違うな。俺の為に、今日のこの子のこの姿は記憶から抹消して欲しい」
顔を見さえしなければ、いつも通りの明朗快活な炎柱・煉獄杏寿郎だ。
「「「「畏まりました!!!!!」」」」
4人見事に重なり合った返事が、辺り一帯に響き渡る。
「うむ。すまない」
そう言うと杏寿郎さんはスッと私の目の前でしゃがんだかと思いきや、
「…っひゃ!」
炎柱の羽織で隠れている私の両太ももに腕を回し、ヒョイと私の身体をそのまま抱き上げてしまった。
「…えっ…ちょ…っ」
戸惑い暴れようとする私に
「羽織が捲れる!大人しくしなさい!それとも…この4人に太ももを見てもらいたいのか?」
杏寿郎さんは意地悪くそう言うと、私の太ももに回した腕の力を強くした。