第4章 騒音再び【音好きシリーズ】
ゴクンとおにぎりを飲み込み、
「…うちの父親は母に暴力や暴言を繰り返し、終いには他所で女を作って母を自殺に追い込んだクソ野郎です」
なるべくなんでもない風を装って炎柱様に言った。
「きっと聞かれると思うからもういっその事全部話しますね。で、私は新しく家に来た継母と父親に邪魔扱いされて奉公に出されたんです。ま、あんな大嫌いな人間しかいない家、出られて清々しましたけど。お陰で大好きなお琴にも出会えたし。…音の変化に敏感になったのは母をクソ親父の暴力から守りたかったから。だから炎柱様に褒められるような能力じゃありません」
こんな形で役に立つ日が来るとは思っていなかったけど。
「折角おにぎりが美味しいのに、こんな胸糞悪い話を聞かせてすいません」
「いや。俺の方こそ嫌なことを思い出させすまなかった」
炎柱様、こんな声も出せるのね。
私がそう思ってしまう程、炎柱様の声はいつもの大きさも、張りも形を潜めてしまっていた。
「気にしないでください。って事で、体格のいい男性がみんな大嫌いな父親と同じだと思い込んでいる私は、炎柱様がとても苦手でした」
「…でした?」
炎柱様は私の言葉に反応し、クルリと私の方へと顔を向ける。
「昨日、天元さんに叱られたんです。もっと自分を、周りをよく見ろって。炎柱様は私の父親とは違うって。天元さんの言っている事、今日の炎柱様との任務でよくわかりました。あなたは体格がよくて、声も頭に響くくらい煩いけど…優しい方です」
私の大嫌いな父親とは似ても似つかない。
炎柱様は"柱"という偉い立場にも関わらず、私の為に声を抑えてくれたり、目線を同じくしようと屈んでくれた。その姿を思い出すと、自然と頬が緩み、私の凝り固まった心が更にほぐれていく。
炎柱様は、ただでさえ大きなその瞳をまん丸に見開き私をじっと見ていた。
「たくさん失礼な態度を取ってしまい、すみませんでした」
「いや…先程も言った通り謝る必要はない」
「私、自分で言うのもなんですが凄く弱いんです。なんで"丙"なのか理解できないくらい。でも、鬼の頸を切ることは中々出来なくても、炎柱様や仲間たちが怪我をしないようにサポートは出来ます。天元さんにもそう仕込まれました。だからもし、また何か…こんな私でも役に立てることがあったらいつでも呼んでください」
「…うむ。頼りにしている!」