• テキストサイズ

鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第22章 残りの時間、私が貰い受けます✳︎不死川さん


先ほど、冨岡様の部屋に入った時と同様に、扉をコンコンと控えめに叩いた。

………。

冨岡様の時と同じく、返事はない。扉を静かに開き


「失礼します」


と意味のない挨拶をし、ゆっくりと部屋の中に進入する。不死川様が眠っているこの部屋もやはり消毒液と、微かな血の匂いがした。


冨岡様も、不死川様も…こんな酷い怪我を負うまで戦ってくれたのに…どうしてそんな…ひどい仕打ちができるんだろう。


私は誰に向けたらいいかわからない、怒りに似たような気持ちをぐっと心の奥底に沈め、不死川様が寝ているベッドにゆっくりと近づいた。


「…やっぱり、まつげ長い」


目を見開き、鋭い目線で鬼を、時には後輩隊士を睨みつける、鬼に負けず劣らず怖いといわれる表情はすっかりとなりを潜め、その21歳という年齢よりも幼く見える寝顔がそこにあった。

顔から、胸のほうに視線を移すと、私より遥かに深く、そして長い呼吸をしていることが見て取れる。


戦いが終わって、意識がなくても…呼吸で回復をしようとしているんだ。もう、頑張らなくてもいいんですよ。


気が付くと、そんなことを考えながら上下する胸に手を置いていた。


「…ん…」


微かに聞こえたその声に


「…っ」


温もりを感じるそこから慌てて手を引いた。


だめだめ。早く包帯を変えてあげないと。


音が立たない程度にぺしぺしと自分の頬を両手で叩き、気合を入れた。邪心を払い身体に負担が掛かることがないように、急いで包帯を変えていると


「…っく……そ……」

「…不死川様?」


苦そうな、辛そうな声に、包帯を巻く手が止まる。


うなされてる…?嫌な夢でも見ているのかな。


起きるかもしれないと思い、その顔を覗き込む。けれども苦しそうな表情でもぞもぞと微かに動いてはいるものの、その目が開かれる様子はない。


「…く…ぅ…」


途切れ途切れ、しかも極小さな声で発せられる言葉はなんと言っているのか理解することは難しく、それでもその苦しそうな声に、表情、そして微かに上がっている左腕に、辛く悲しい夢でも見ていることだけはわかった。


/ 898ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp