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鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第22章 残りの時間、私が貰い受けます✳︎不死川さん


悲しくてたまらないはずなのに、悲しんで立ち止まっている暇なんてきっとないんだ。


確かに私は、不死川様のお側にいたいという不純な理由でここに来た。でも実際にここに置かせてもらい、その気持ちと同じ位に、この子達の力になって少しでも笑顔になって欲しいとそう思った。


「よぉし!これを置いてきたらすぐに包帯交換に行ってきます!この包帯巻きの名人、柏木すずねにお任せください!」


おどけながらそういう私に、


「ふふっすずねさんは、見かけによらず面白い人ですね」


すみちゃんはそう言うと、今日一番の笑顔を私へと向けてくれたのだった。










大部屋から順番に回っていき、最後にたどり着いたのが、最も重症な怪我を負っていたといえる柱の二人、冨岡様の眠っている個室と、それと隣り合う場所に位置する、私が恋慕う相手である不死川様の眠っている個室だった。

私はまず初めに、手前にある冨岡様が眠っている部屋の扉をコンコンと控えめに叩いた。

………。

返事がないことを確認し、音を立てないように静かにその扉を開く。開いた扉の向こうは、消毒液、そしてまだほんのりと血の匂いがした。

ゆっくりとベッドに近づき、天井に向いている顔を覗き込む。


「…きれいなお顔」


優れない顔色が、より一層その陶器のように整った顔を引き立てているようで、不謹慎にもそんなことを呟いてしまっていた。


…見とれている場合じゃない。


手早く済ませて、不死川様の包帯も交換して、他の仕事もどんどんやらなくちゃ。


「失礼します」


意識がないとは言え、断りなくその体に触れるとこが憚れた私は、自分一人でできる可能な範囲の包帯を手早く交換していく。

冨岡様の包帯を変えるのを滞りなく終えた私は、入ってきた時と同様に、なるべく音を立てることのないよう部屋を出た。パタリとほんのわずかな音を立て扉が閉まり、ほっと息をひとつ吐く。


…次はいよいよ不死川様のお部屋だ。


こんな状況にも関わらず、トクトクといつもよりも早く鼓動する自分の心臓に呆れにも近い感情を抱きながら、私は隣に位置する扉の前まで移動した。



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