第21章 おにぎり大合戦【さつまいもvs鮭】
冨岡さんの後について辿り着いたのは
「わぁ…!すごい…白詰草がたくさん!」
辺り一面白詰草がたくさん咲いた野原だった。
そこはものすごく素敵な場所で、はっきり言って冨岡さんがこんな素敵な場所を知っているとは、とても意外であった。
「こんな素敵な場所、どうやって見つけたんですか?」
私がそう冨岡さんに尋ねると、
「炭治郎が、柏木はこういった場所が好きだと教えてくれた」
「…そうなんですね」
相変わらずの無表情を浮かべそう言った。
こんな時、相手により良く思われたいと思う人であれば、
"君のために俺が見つけたんだ"
と、歯の浮くような言葉を投げかけてくることもあるのだろうが、そんな気配のかけらもない冨岡さんは、本当に冨岡さんらしいと思う。
「…何だか、心が落ち着きます」
草花の香りを体内に取り込もうと、目を瞑り
スゥゥゥ
と深く息を吸っていると、
「…っ!」
ふと、右手に感じた、剣ダコがたくさんできた硬い掌の温もりに、肩がビクリと跳ね上がる。
「俺は柏木の弟になりたいんじゃない。好いた相手とは、肩を並べ共に歩みたい。毎日俺だけのために鮭おにぎりを握って欲しい」
脈略もなく告げられるその愛の言葉とも取れる言葉達に、頭の中が沸々と煮立ち始める。
…というか最後の言葉…無意識だろうけど…まるで…求婚されてるように聞こえちゃう…!
無意識ほど恐ろしいものはないと、この時私は心の底から感じていた。
「柏木」
名を呼ばれ、彷徨うように正面に向けていた視線を冨岡さんの方に恐る恐る向ける。
冨岡さんは赤面し、固まっている私の手をギュッと強く握ると
「そばにいて欲しい」
そう一言言った。
結局は、師範も冨岡さんも、自分の言いたいことを言うだけで、その場で最終的な私の答えを求めてくることはなかった。
そして、例え2人から何かしらの返事を求められたとしても、きっとその時の私には、何も答えることは出来なかったと思う。