第21章 おにぎり大合戦【さつまいもvs鮭】
冨岡さんは私が葛餅を咀嚼し、飲み込むのを確認すると、
「勘定を払ってくる」
と一言だけ述べ、スタスタと会計に向かって行った。思いもよらない展開に全くついていけない私は、
何…冨岡さん…あんな恥ずかしい事…出来ちゃう人なの…?…っと言うか…え?殆ど話ししてないけど…これで終わりで…良いのかな?
そんな事を考えながら
「…っ待ってください!」
この流れだと、冨岡さんに私が食べた分も支払われちゃう!
慌てて立ち上がり、冨岡さんの後を追おうとしたが
「…あ!」
ガサッ
こんな時に限ってお金の入った巾着袋を床に落としてしまう。椅子をずらし、急いで巾着袋を拾い上げ、再び椅子を元に戻しお会計へと急いだ。
けれども、
「ありがとうございました」
辿り着いた時には、時すでに遅く、私が注文した葛餅の支払いも、冨岡さんの手によって済まされてしまっていた。
そのままスタスタと店の外に出て行ってしまう冨岡さんの後を追い、
「ご馳走様でした!」
「またお越しください」
私も慌てて店の外に出る。他のお客さんの迷惑にならないよう静かに店の扉を閉めた後、私の方をじっと見ながら待っていてくれていると思われる冨岡さんに
「ダメです冨岡さん!自分で食べた分は自分で支払いますので…受け取ってください!」
そう言って葛餅の値段と同じ金額のお金を差し出した。
「…っちょ…冨岡さん!」
そんな私を無視し、冨岡さんはスタスタと何処かに歩いていく。
もぅ!話くらい止まって聞いてくれてもいいのに!
そう思ったものの、何度か顔を合わせるうちに、冨岡さんが非常にマイペースで、あまり人に合わせたり、気を使ったりすることが苦手だと言うことはわかっていたので(本人はきっと"心外だ"と言うと思うが)、早々に諦めて置いていかれないようにその背中を追うことに専念した。