第21章 おにぎり大合戦【さつまいもvs鮭】
「それじゃあ私は…葛餅にします!すみません!注文をお願いします!」
店員さんに声をかけ、私は冨岡さんの鮭のおにぎりと、葛餅を一つずつ注文させてもらった。
「わぁ!プルプルしてて綺麗で…すごく美味しそうです!」
運ばれてきた葛餅があまりにも美味しそうで、私は思わず普段よりも大きな声でそんな事を言ってしまった。
…やだ…私ったら…いくら好物の葛餅が目の前にあるからって…冨岡さんの前でこんな子どもっぽいところを見せてしまうなんて…恥ずかしい…!
そう思い、チラリと伺うように冨岡さんを盗み見ると、
「…っ!」
いつも貼り付けたような"無表情"に見える冨岡さんが、微かだが微笑んでいた。
…そんな顔…反則だよ…!
「…と…冨岡さんは!こんなところに来てまで鮭のおにぎりを注文するだなんて、本当に鮭のおにぎりがお好きなんですね!」
動揺を隠すようにそんな事を口走ったのに、
「あぁ。だが俺が本当に食べたいのは柏木の握った鮭のおにぎりだ」
「…っ!」
冨岡さんの口から発せられた言葉が、より私を動揺させた。
ポタリと私が持っていた楊枝から葛餅が落ち、
「落ちたぞ」
それに気がついた冨岡さんが徐にそれを指で拾い上げ、ぎゅっと閉じていた私の唇に
むにゅっ
とそれを押し当てる。
…え…な…ど……え…?
その斜め上を行く行動に固まっていると、
「口を開けろ」
と静かに冨岡さんが言った。
柱である上官の言葉に反射的に"従わなくては"と場違いにも思った私は、揃えた指が2本入る位まで口を開けてしまう。するとその直後、
「…っ!…冨岡さ…「口に物を入れながら喋るな」…!」
私の口内にその拾い上げた葛餅を押し込むように冨岡さんの指が、一瞬ではあったものの確かに侵入してきた。
…何…何…何しちゃってくれてるのこの人ぉぉぉ!?
そう思いながら冨岡さんを凝視していると、
「…?何を見ている。さっさと噛んで飲み込め」
そういつもと変わらない調子で言う。あまりにも普通すぎるその様子に、
動揺している自分がおかしいのかな?
段々とそんな気さえしてくる。