第21章 おにぎり大合戦【さつまいもvs鮭】
お店の中を見渡すと、
…いた
端っこにポツリと1人で座っている冨岡さんの姿が目に入る。
「何名様ですか?」
そう尋ねてくる店員さんに
「あの…待ち合わせなんですけど」
そう答えると、チラリと冨岡さんの方を見遣り、何やら意味ありげな顔を私に向け、
「あの方とお待ち合わせの方ですね?どうぞお席にお掛けください!」
と、なんだか必要以上にニコニコと言われてしまう。
…何?何なの?
そんな疑問が表情に出ていたのか、可愛らしい店員さんが私の方に近づき、
「不快な思いをさせてしましたか?すみません。実は、あのお待ち合わせの方、注文を取りに行ったら、"大事な人と待ち合わせている。注文は来てからでも良いか?"なんて聞いてもいないのに答えてくれたので。だから…どんな人が来るか楽しみにしてたんです」
と私にだけ聞こえるようにこっそりと言った。
ボッ
何余計なこと言ってくれちゃってるんですかー!
そう心の中で叫びながら、急激に熱くなった首から上に手でパタパタと風を送り
「…す…すみません」
と、なぜか今度は私が謝ってしまっていた。
"お席にどうぞ"
そう声かけられ、私は何やらコソコソとしながら冨岡さんの待つ席へと向かった。
席に近づくと、冨岡さんの視線が
スッ
と私の方に向けられ、パチリとその涼しげな目と私の目が合う。
「よく来たな」
相変わらずあまり変化のない表情で冨岡さんはそう言った。
「…お待たせして…すみません」
この無表情に近い視線を私に向ける冨岡様が、本当に私に好意を抱いているとは、…何度考えてもピンとこない。
そんなことを内心思いながら冨岡さんの正面の席に座り、
「なにか…頼みますか?」
私がそう尋ねると、
「俺は鮭のおにぎりを頼む」
間髪入れずにそう答えが返ってきた。
「そう言えば、この鰯庵は、甘味だけじゃなくて軽食も楽しめるところがいいって、この辺では人気ですからね…」
そうは言っても、わざわざ甘味茶屋に来てまで鮭のおにぎりを頼むそのブレない様子に、何やら感心に近い気持ちを抱いてしまったのだった。