第21章 おにぎり大合戦【さつまいもvs鮭】
「柏木」
私の名を呼ぶ熱のこもったような声に
「…っ…はい…」
何とか返事をすると、
「柏木が俺へと向けてくれる"敬愛"の気持ちも確かに嬉しい。だが俺は"敬愛"ではなく、もっと本能的に俺を求め欲する…ただの"愛"が欲しい」
そう言って師範は、洗い場から手を離し、私の身体を背後からぎゅっと強く抱きしめた。
苦しくない程度の力で抱きしめられる身体に反し、心は苦しいほどに激しく、そして甘く締め付けられる。
「…今後、俺のことを、"1人の男"として見てくれるな?」
私の身体を抱きしめながらそう尋ねてくる師範に
「………はい……」
蚊の鳴くような声で一言そう返事をするのが精一杯だった。
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どうやって炎柱邸を後にして、どの道順でここまで来たのか、はっきり言ってあまり記憶がない。けれども目の前には、
甘味茶屋鰯庵
の文字が書かれた小豆色の暖簾が確かに見える。
"俺だけ柏木と2人で話すのは卑怯だ!それ故冨岡に鴉を飛ばしてある。今から"甘味茶屋鰯庵"に行ってやってくれ"
出来ることならばお断りしたかった。なぜなら私は、師範との、私にとってはものすごく刺激的なやり取りで、脳がキャパオーバー寸前だったからだ。
出来れば明日にして欲しい
そう言おうか迷ったが、相手はただでさえ多忙な柱だ。いくら個人的な色恋の問題とはいえ、多忙極まりない柱の時間を無駄にするわけには行かない。それに、私自身としても、キャパオーバー寸前で、どうにかなってしまいそうではあったが、一刻も早くこのどうしようもない状況から脱出したいという思いもあった。
そんなこんなで到着してしまった甘味茶屋鰯庵。
この中に、冨岡様が…。
ドキドキとうるさく音を立てる心臓の辺りをぎゅっと握り
よし。行こう。大丈夫。私は出来る子。私は出来る子。
と、まるで決戦にでも赴くような気持ちを抱えながらお店の扉に手をかけ
ガラッ
「いらっしゃいませぇ」
私はそれを開いた。