第4章 騒音再び【音好きシリーズ】
なかなか店内から出てこない炎柱様に、もう帰ってしまおうかなとほんの少し思い出した頃
ガラッ
「待たせてすまない」
と風呂敷を持った炎柱様がようやく外へと出て来た。
何、その風呂敷?
そう思いながらじーっと風呂敷を眺める私を置いてけぼりにし、
「では行こう!」
と言って炎柱様は再び歩き出した。
その風呂敷はなんだ、食事はどうするのか、何処へ行くのか、聞きたいことはたくさんあるのに、スタスタと歩いて行ってしまう炎柱様は全くもって私に説明してくれるつもりはないらしい。
この人…マイペース過ぎるでしょう。
心の中でひとりごちりながらも、私は素直にその背中を追いかけた。
「この辺にしよう」
辿り着いたのは河川敷だった。
「…綺麗。それに…素敵な音がする」
川の流れる音。草の擦れ合う音。巣に帰る鴉の鳴き声。
目をつぶり、耳を澄ませると心が安らいだ。
カサリと音がした方に目を向けると、炎柱様が河川敷に腰を下ろし
「君もここに座るといい」
と自分の隣をポンポンと叩いていた。私はその言葉に従い、けれども炎柱様が叩いた場所よりも人一人分の距離を多くとり、炎柱様の隣に腰掛けた。
「さて。君はどれにする?」
炎柱様が持っていた風呂敷をパッと開くと
「美味しそう」
沢山のおにぎりがそこから顔を出した。
「そうだろう?先程の店で店主に握ってもらった!好きなものを取ると良い」
成る程。だから中々店の中から出てこなかったのか。
「…でも、どうしてわざわざ?あの店で食べれば良かったではないですか」
「あの店は騒がしかっただろう?こうした方が君と落ち着いて話が出ると思った」
そう言ってニコリと微笑んだ炎柱様は、私が勝手に作り出していた炎柱様像とは似ても似つかない。
「ほら。取りなさい」
「…ありがとうございます」
私がおにぎりを一つ手に取ったのを確認すると、炎柱様は両手に一つづつ、計二つのおにぎりを手に取りモグリと徐にかぶりついた。
「うまい!」
「…っ!」
炎柱様の大声が川原に響き、私は突然の大声にビクッと肩を揺らす。
「っすまない!ついいつもの癖で」
そう言って炎柱様は焦り、私に向かって謝った。
「…いいえ。大丈夫です」
その大声に驚きはしたものの、不思議と以前のような嫌悪感は感じなかった。