第4章 騒音再び【音好きシリーズ】
大好きな母を守りたかった。母が、あのクソ男に怒られないように、息遣いや物音を聞き分けて、機嫌が悪いと思った時は母を遠ざけるようにしていた。機嫌が悪いとあの男は母を怒鳴り、時に暴力を振るっていた。そんなあいつを母は愛し、尽くしていた。
あんな最低な男のどこが良かったんだろう。
自分も大人になればわかると思っていたのに。わかるどころか嫌悪感が強まるばかりだった。
「大丈夫か?」
過去に思考を奪われていた私を、気付くと炎柱様が心配そうに覗き込んでいた。
「…なんでもありません」
「ならいいが。そろそろ外に出る」
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「さて!柏木はどこに行きたい?」
屋敷の外に出るや否や炎柱様はニコニコと私の顔を見ながら言った。前回約束した通り、私と食事に行くつもりらしい。
私とご飯なんか食べて何が楽しいんだろう。
そう思う部分はあったが、今回は適当な嘘を言ってこの場をやり過ごそうというつもりはない。天元さんとの約束を守るというのもそうだし、私自身、炎柱様の人となりをもっと知りたいと思った。この人を知ることで、私の幼少期から抱えるトラウマときちんと向き合えるような気がしていた。
「ここから東の方に、定食屋さんがありましたよね?あそこなんてどうでしょう?この時間であればもう夜の営業が始まっているでしょうし、まだ混んではいないと思うのですが」
「あそこか!では行くとしよう!」
そう言ってスタスタと歩き出した炎柱様の後を
よっぽどお腹が空いてるんだな
と思いながら急ぎ追いかけた。
定食屋の扉をガラリと開けると
うわっはっはっは!
この街の住人と思われる人たちが少し早めの酒盛りを始めていた。
…ちょっと嫌だな。でも炎柱様も一緒だし、そんな我儘も言ってられない。
そう思い、私が
「さぁ。入りましょうか」
と炎柱様に言ったものの、炎柱様はその酒盛りしている集団をじーっと見ており扉の前から動こうとしない。
「…炎柱様?」
不思議に思った私がそう声をかけると、炎柱様は左後ろにいた私の方にグリンと首向け
「少し外で待っていてくれ」
と言うと自分は店内へと入っていき、そのまま後ろ手に扉を閉められてしまった。
「…この状況…なに?」
1人取り残された私は、ぼーっと閉められた扉を見つめるのみ。