第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
その後、
「嘘をついてしまい…っすみませんでした!」
今度は
「…っいいの!わかってるから!…千寿郎さんが、私のために嘘をついてくれた事くらい!だから、そんなに謝ったりしないで!…お願いだから、顔を上げて!」
杏寿郎さんに呼ばれ、3人分のお茶と、先ほど私が持ってきたきんつばを持った千寿郎さんが道場へとやってきた。そして、私と目が合うや否や、お盆を杏寿郎さんに押し付けるように渡し、床にその額がついてしまうのでは、と思うほどに深く頭を下げた。
そんな千寿郎さんに、私は慌てて駆け寄り、その背中に手を添え、なんとか顔を上げてもらえるようお願いをする。けれども、千寿郎さんも杏寿郎さんに似て、中々頑固な部分を持ち合わせている為か、顔を上げてくれる様子がない。何とかして欲しい、と思いながら杏寿郎さんの顔を見上げると、
「すずねの、言う通りだ。千寿郎は何も悪くない。千寿郎は俺の願いを聞き入れ、すずねをここに呼んでくれただけのこと。謝るべき者がいるとすれば、それは俺1人だ。ほら、すずねが困っている。そろそろ顔を上げてはくれないか?」
と私の反対側にしゃがみ、私と同じように千寿郎さんの背中に優しく触れた。
「…はい」
千寿郎さんはようやく顔を上げると、まずは杏寿郎さんの顔をチラリと見た。その次に私の顔をチラリと見た後、
「…僕は、お二人の幸せな姿を見れる日が来るのを…あの頃よりずっと、ずっと待ち望んでいました」
そう言って、右手で私の手を、左手で杏寿郎さんの手を取る。
「兄上」
「なんだ」
そして、杏寿郎さんの目をじっと見据え、
「僕は、すずねさんのことが好きです」
そう言った。