第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
忘れられてしまっていたとか、
私じゃない人が隣にいたとか、
そんなことは、もうどうだって良い。
ちゅっ…ちぅ…
私は今まで離れていた時間を埋めるように、目を瞑り何度も何度も杏寿郎さんの唇に、自らのそれを押し付けては離し、離しては押し付けてを繰り返す。
その内、杏寿郎さんの手が私の頭を抱き込むように捉え、
ちゅ…ちぅ…
お互いの存在を確かめるかのそうなそれに形を変えた。胸に暖かい何かがじんわりと広がり、
…幸せ
気がつくと、目からポロポロと涙がこぼれ落ちていた。
どれくらい唇を重ね合っていたのだろう。
杏寿郎さんが優しく私の肩を押し、私も杏寿郎さんの頭からその手を下ろし、ゆっくりとお互いの唇が離れて行った。
目を開けると、杏寿郎さんが私のことをじっと見つめていた。
「…すずね…本当にす「謝らないでください」‥っ!」
なにを言われるのか察知した私は、杏寿郎さんのその言葉を無理矢理遮る。
「…だが…「良いんです」」
再び言葉を遮った私に、杏寿郎さんは困ったように眉を下げる。
私は杏寿郎さんの首に腕を回し、ギュッと強く、縋り付くように抱きつき、
「…今こうして、私を思い出してくれた…それだけで…充分です」
そう言った。けれども
「…しかし…」
杏寿郎さんはまだ納得がいかない様子で、目線を下げ、悲しげな目をしている。そんな杏寿郎さんの頭を掴み、
グイッ
と自分と無理矢理視線を合わせ、
「…私も、杏寿郎さんに酷いことを言ってしまいました。だから…それで……っおあいこです…!」
そう言うと、
「…っ…!…すまなかった…」
結局は謝られてしまったが、杏寿郎さんは再び私を強く強く抱きしめてくれた。
「…もう…謝らないでって、言ったのに…」
私もそれに応えるように、再びその背に腕を回す。
「思い出してくれて…ありがとう…ございます」
「絶対に…もう二度と、離しはしない…!」
これからまた、夢にまで見た杏寿郎さんとの日々が始まる。
そう考えただけで、信じられないほどの幸せが、私の胸を埋め尽くしていくのだった。