第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
ベッドには枕と布団だけがあり、私が幼少期から大切にしていた杏寿郎さんにそっくりな虎のぬいぐるみは、今はクローゼットの奥深くにしまい込み、目に触れないようにしていた。
…寂しいな。
ずっと、外泊時以外は必ず一緒に寝ていたのに。今は視界に入れるだけで、涙が出てきてしまいそうになる。
悲しさを何処かへと飛ばすように、頭を左右に何度か振った後、ベッドにゆっくりと入り、照明のリモコンをオフにした。
「もう!手土産はいりませんと、言いましたよね?」
そう言いながら私が差し出した、駅のそばにある和菓子屋さんのきんつばを、千寿郎さんは眉を下げながらも受け取ってくれた。
「…手土産じゃありません!…そう!おやつとして一緒に食べようと思って買ってきたんです!ここのきんつば、サツマイモが入っててとっても美味しい…んですよ…」
無意識に買ってしまった、杏寿郎さんの好物であるさつまいも。我ながら呆れてしまうなと、苦笑いがこぼれる。
「そんなあからさまな嘘をついてもわかりますからね!…ちょうどもうすぐ3時にもなりますし、お茶をいれてくるので一緒に食べましょうか」
「うん!…それで?槇寿郎様は?」
玄関に上がらせていただいたものの、今日私に用があるはずの槇寿郎様の姿が見えない。千寿郎さんの向こうにある、居間の方に視線を向けてみるも、槇寿郎様、そしてまだお会いできていない瑠火様もいる様子はない。
「急に用事が出来てしまって!すぐに戻ってくるから、少し待っているようにと言われています」
「そうなんだ。あ!それじゃあ、道場!道場を見せてもらっても良いかな?」
私がそう尋ねると、
「ええ!構いませんよ。それじゃあ、昔みたいに道場の端に座って食べませんか?」
千寿郎さんも嬉しそうに笑顔を浮かべながらそう答えた。
昔、特に蜜璃ちゃんがまだ杏寿郎さんの弟子として一緒にいた頃は、
お腹と背中がくっついちゃいそうなんですぅ!
と半泣きで訴える蜜璃ちゃんの希望で、道場の端でおやつをつまむ事があった。
「わぁ!良いね!」
「それでは…先に道場に行っててもらえますか?場所は昔と一緒なので」
「はい!」
いそいそと靴を脱ぎ、端にきちんとそろえ
「おじゃまします」
と煉獄家に足を踏み入れた。