第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
私が答えあぐねているのが電話の向こうまで伝わってしまったようで
"…兄上は明日、仕事で家にいません!僕と父上の2人だけです!そんなに時間は取らせません!だから…少しでいいんです!お願いします!"
千寿郎さんがそう必死な様子で言った。
千寿郎さんに、そんな風にお願いされてしまえば、私が断れるはずもなく
「…わかった。何時に…行けばいいかな?」
気付くとそう言っていた。
"…ありがとうございます!それじゃあ…午後の2時あたりはどうでしょうか?"
幸か不幸か明日は何の予定もない。もちろん用が済んだらすぐにでも帰るつもりではいるが、あまりバタバタとしてしまうのも失礼に当たるのでそれはそれで安心だ。
「じゃあ2時頃、お伺いさせてもらうね」
"はい!道は大丈夫ですか?不安でしたら駅まで迎えに行きます!"
「ううん。大丈夫。…ちゃんと、覚えてるから」
むしろ、忘れようとしても、忘れることなんて出来ないだろう。
"そうですか。でももし万が一、不安があればすぐにでも連絡を下さいね!あ!あと、手土産等は不要ですからね!"
「うん。わかった」
"それでは、また明日!おやすみなさい!"
「うん。また明日ね」
そう言って電話を切った。
はぁ…
ひとつため息をつき、スマートフォンの画面を消してテーブルの上にコトリと置く。
「…今日は…もういいや…」
引越し業者を調べる気にもならず、もう今日は寝てしまおうと立ち上がり、洗面台へと向かった。
歯ブラシをとり、歯磨き粉をつけて歯を磨く。ふと鏡にうつった自分の顔をみると、
「…ひどい隈…」
とても疲れた顔をしており、とても人に見せられるような顔ではなかった。
「…行く前に…コンシーラー買わないとかな」
うがいをし、目の周りに入念に美容液を塗り込み
「…寝よう」
私はベッドへと向かった。