第4章 騒音再び【音好きシリーズ】
「隠や一般隊士がどんなに探しても痕跡ひとつ見つけられないんだとよ。だが確実に鬼の被害が広がってる。だから鬼が力を着けて手遅れになる前に、その地区担当の煉獄が自ら赴くんだと。で、お前がその補助に指名されたわけ」
「…はぁ」
お館様も炎柱様も、いったい私のことをなんだと思っているんだろうか。まがりなにりも私は"音柱・宇髄天元の継子"である。なのに炎柱様の補助役に任命されるとは。自分のこの変わった能力が活かせることは光栄ではあるが、本来の立場を放棄していることにはならないだろうか。
「お前また余計なこと考えてんだろ?」
「どうしてわかるんです?」
「隊服。左手で握りしめてんだろ。それ、お前が考え事してる時の癖」
天元様に言われ、自分の左手を見ると、確かに隊服のズボンをギュッと握りしめていた。
自分のこんな子どもっぽい癖…初めて知った。
「お前はもっと、男を、自分自身を知る必要がある。煉獄と飯を食って来なかったらしばらくこの家には立ち入り禁止だ」
「っそんな!それじゃあ雛鶴さん、マキオさん、須磨さんに会えないじゃないですか!」
「お前、俺はどうでも良いのかよ。とにかくそう言うことだ!俺の継子として派手に任務をこなして来い!」
「っ痛!」
そう言って天元さんは私の背中をバシンと容赦なくその手のひらで叩いた。
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翌日。
待ち合わせ場所に行くと、そこには既に炎柱様の姿があった。
「遅くなってしまい申し訳ありません!」
苦手な相手とは言え、上官である柱を待たせてしまったことに慌てた私は、頭が膝についてしまうほどの角度をつけて炎柱様に謝罪を述べた。
「いいや。俺が早くきすぎた。謝る必要はない」
そう言う炎柱様に私は、なんとも言えない違和感を感じた。
…なんだろう。前回の任務の時より、炎柱様を嫌だって思わない。天元さんと話をしたお陰なのかな。
確かに私の中に常にあった"父親と同じで体格がよく声がデカい"と言うフィルターは薄くなっている気はした。
…でもそれだけじゃない。
自分の心境の変化の理由が見つからず、私は炎柱様をじっと見つめてしまう。
「どうした?」
そう言って私の目を覗き込む炎柱様に、私はようやく違和感の正体に気がついた。
炎柱様の声…前回よりも小さいんだ。それに私の目線に合わせて屈んでくれてる。