第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
それから毎日、
”会って話がしたい”
とメッセージが送られてきたけど、体調が悪いと嘘をついて会うことを拒否し続けた。
会わなければまがこの関係が終わらずに済む。
そんな甘えた気持ちと、
会って責められるのが怖い。
そんな恐怖の気持ちに、私の心は前にも、そして後ろにも動けなくなってしまっていた。
そんな私のエゴも、終わりを迎える。
「しょうこさん」
仕事が終わり、駅から歩いて帰っていると、後ろから名前を呼ばれた。振り向かなくても、誰の声かなんてわかる。だってもう私は、杏寿郎のことを本気で好きになっていたから。
ゆっくり振り返ると、そのきれいな瞳と目があった。
「待ち伏せるような卑怯なことをしてすまない。だがどうしても君と直接話がしたかった」
私の独りよがりな恋も、これで終わる。
「…私じゃ…ダメなの?」
もっと他に言うべきことがあるんじゃないか。自分でそう思いながらも、震える唇から紡がれたのはただこの一言だけ。
「ダメだ。俺には、今も昔も、すずねしかいない」
「…間違えたくせに」
間違えるくらいなら、私でも良いじゃない。
「…っ…そうだな。だがもう2度と間違えない。君を…しょうこさんを巻き込んでしまい、心から申し訳なかったと思っている」
欲しいのは、謝罪の言葉なんかじゃない。
「…本当に…悪いと思ってる?」
「あぁ。君が許せないと思っても仕方のないことだと思っている」
許さなくて良いから、私を選んでよ。
「…許してあげる。…なかったことにしてあげる。だからその代わりに…… 」
卑怯だって思われても良い。
最後に、杏寿郎との思い出が欲しい。
杏寿郎が、私の顔をじっと見ながら、続きの言葉を待っている。
「…キス…して…」
そうすれば、忘れてあげるから。
なのに、
「それは出来ない」
考える様子なんて少しもなく、杏寿郎はそう答えた。
「…っ…なんでよ…?…抱けって言ってるんじゃ…ないよ?…キスくらい…一回くらい…良いじゃん…っ!」
悲しくて、虚しくて、涙が堪えきれなかった。
「すずねを裏切るようなこと、俺にはできない。君にとっても、それをする事が良い事とは…どうしても思えない」
その目に、迷いなんて少しも感じなかった。