第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
5分ほど遅刻して待ち合わせ場所に着くと、時間通りに来ていたのか杏寿郎の姿がすでにそこにあった。
「いいや。俺も先程来たばかりだ」
遅刻してきた私に少しも怒る様子もなく、微笑みかけてくれる杏寿郎に胸がきゅんと甘くなった。
「うふっ。杏寿郎ったら…本当に優しくて素敵。こんな人が私の運命の相手だなんて…私ったら世界で1番幸せ」
そう言いながらそのたくましい腕に抱き着いて、
"私が杏寿郎の運命の相手"
そう自分に言い聞かせた。
でも、現実は、そんなおとぎ話みたいに甘くてふわふわしたものじゃなかったんだ。
どことなく、自分と似ている雰囲気を持った女性が、今にも泣きそうな顔で私の隣にいる杏寿郎を見つめていた。
恐る恐る彼の顔を盗み見ると、杏寿郎もその女性を、悲痛な表情で見つめていた。
杏寿郎が探したいたのは私じゃなかった。
一瞬でその事実を理解した。
だからと言ってそんな簡単に、諦めることなんて出来るはずがない。悲しげに杏寿郎を引き止めようとする彼女の言葉を遮り、杏寿郎の腕を無理やり引っ張るようにしてその場を去った。
「…っ嘘つきー!!!」
その"嘘つき"は、きっと杏寿郎に向けて言った言葉なのに、まるで私に向けて発せられたような、そんな気がしてならなかった。
あの人のところへ行ってしまうかもしれない。
そんな心配をよそに、杏寿郎は私が望んだとおり、映画館まで一緒に来てくれて、私と隣り合った席に座ってくれた。
まだ大丈夫。
まだこの関係を続けられる。
「…っ映画、楽しみだね。涙なしでは見られないラブストリーらしいよ」
そんな期待を込めてその手に触れた。でも、手をやんわりとはがされ
「話がある」
燃えるように赤く、暖かい色をしているはずの杏寿郎の目から、酷く冷たい視線が送られてきているような気がした。
あぁ。もうだめだ。
泣きたくなる気持ちを堪え、チケットのお金を理由に映画が終わるまで待ってほしいとお願いした。きっと、私に対する腹立たしさや、疑念でいっぱいだったのに、それでもそれを了承してくれた杏寿郎はやっぱり素敵で。
もう少しだけ。
そんな思いに負けた私は
「…おトイレに行ってくるね」
嘘をつき、そのまま逃げるように家に帰った。