第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
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嘘なんてつくつもり無かったの。
それが本当だと、思いたかっただけなの。
そのきれいな瞳に。優しいくて力強い声に。
"一目惚れって本当にあるんだ"
一瞬で恋に落ちた。
そんな相手に、あんな情熱的な言葉を掛けられて、恋に落ちない人なんて…いると思う?
頭の片隅で、
”嘘なんてついたらダメ”
と言う良い自分と、
”嘘じゃないかもよ?ただ私が思い出せていないだけかもよ?”
と言う悪い自分が言い合っていた。
「…もちろん覚えています!あなたが探していたのは…間違いなく私です!私も…あなたを探していました!」
軍配を上げたのは、悪いほうの私だった。
その後、仕事に戻らなくちゃならないからと、慌てて連絡先だけ交換した。嬉しくって、何度もその素敵な名前を頭の中で繰り返したの。
煉獄杏寿郎。
そわそわと落ち着かない気持ちで残っていた仕事を片付けて、また会おうと約束していた夜が来た。
驚くほどたくさん食べる杏寿郎は、今まで出会ってきた男性たちとは比べ物にならない位に素敵で、絶対にこの人が欲しい。
そう思ってしまったの。
それからは毎日、連絡は取りあったけど、お互いに仕事が忙しくて直接会うことは出来なかった。それでも、
「ふふ…来てる」
たった数通のメッセージのやり取りだけで、私は幸せいっぱいだった。
家でぼんやりと杏寿郎から送られてき来たメッセージを読み返していると、
”運命の恋がここにある”
そんな謳い文句の、最近上映が始まった素朴な女優さんと、人気俳優さんとの恋愛映画のテレビCMがふと耳に入った。
二人で恋愛映画なんて見たら…もっとお互いの気持ちが盛り上がるかも!そのあとロマンティックなディナーでもして、そうすればあっという間にその先にも!
「きゃー!私ったら大胆!」
そんなことを思ってひとりはしゃいでいたの。
いつもよりも気合を入れて服を選んで、下着まで新調した。
「早く会いたいなぁ」
メイクだっていつもよりも濃い目に。仕上げに色のついたリップクリームをつければ準備は完了。
「…っと!遅れちゃう」
テーブルに置いておいた鞄を引っ掴み、私は急ぎ家を出た。