第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
苛立つ気持ちを心の奥底に沈め、一人家路につく。すぐにでもしょうこさんに連絡を取り、話をするべきだと思うものの、その連絡をすることさえも今は腹立たしい。
家に近づき、角を曲がれば門があるところまで来たとき、父上に千寿郎、そして女性の話し声が聞えて来た。
…この声は!
今度は間違えるはずがない。ほんの数時間前、駆け寄り抱きしめることができなかった彼女の声だとすぐにわかった。ばれないように慎重に、身を隠しながらそちらを覗くと、
「…っ!」
やはりそこには彼女の姿。
どういった経緯でこの家にいるのかはわかりかねたが、そんなことはどうでもよかった。ぐっと足に力をいれ駆け寄ろうとした時、
ピコーン
スマートフォンがメッセージの到着を告げ、その音が俺を現実へと引き戻す。
まだだ。まだしょうこさんと話が済んでいない。そんな中途半端な状態で…彼女に、すずねさんに会えるはずがない。
ぐっと走り出したい衝動を抑え、せめて彼女の姿だけでも目に焼き付けようとその姿をじっと見つめた。
その時
「…!」
父上と目が合った。反射的に身を隠し、
「俺は一体…何がしたいんだ」
額に手を当て、ひとり虚しく呟く。
頃合いを見て、再び門の方を覗くと、そこにはもう彼女の姿はなかった。ゆっくりと父上に近づくと
「随分とお早いお帰りだな」
棘のある言い方で父上が言った。
「…ただいま戻りました」
「…彼女とデート、ではなかったのか?」
ドキリと心臓が大きく波打つ。
「どうしてそれを…?」
「…さぁな」
その会話が、俺が犯した大きな過ちも、そしてそのせいで彼女をひどく傷つけてしまったことも、父上が全て知っていることを物語っていた。
「…彼女の事を教えてください」