第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
しばらくそのまま歩き続け、もうすぐ映画館に着くという場所まで来た時。
フと、視線を感じ、何気なくそちらに目を向けた。
その時
「…っ!」
魂が震える程の強烈な何かが、頭のてっぺんから爪先までを駆け抜けた。
間違いない。彼女だ。
今俺の腕を掴んでいる彼女、しょうこさんの後ろ姿を見つけた時とは比べ物にならない程の激情とも言える感情が俺の胸に一気に溢れる。
同時に、自分が大きな過ちを犯したかもしれない、と言う疑念が確証へと形を変える。
長年探し続け、会いたいと思い続けた本物の彼女が、今にも泣き出しそうな顔でこちらを見ている。
すぐに駆け寄って抱きしめたい。
そう思った。
けれども、
「…ねぇ、杏寿郎。あの人、私達のことじっと見て何なのかしらね?」
今の俺にそんなことが許されるはずもなく、
「ほら!映画の時間に遅れちゃう!早く行きましょう!」
そう言って俺の腕を掴む力を強め、引っ張っていこうとする、今はもう俺にとって何者なのかもわからない彼女、しょうこさんの腕を振り解くことも出来ずにいた。
抱きしめたいと思う彼女の顔は更に歪み、それでも俺を引き止めようとしてくれたのか、
「…っ…待って!」
酷く心地のいい声が聞こえた。だがそれを、
「あの!」
と隣の彼女、しょうこさんが遮る。
「私達、今デート中なんです。どこの誰だか知らないけど、私の"彼"に何かようでもあるんですか?…邪魔しないでもらえます?」
彼女に酷いことを言うのはやめて欲しい。
そんな言葉が口ついて出てきそうになるのを、グッと拳を強く握り堪えた。今の俺に、そんなことを言う資格はない。
すまない。どうか許してくれ。
そう心の中で謝りながら、スッとその横を通り過ぎた。その時に目の端にほんの少し入った彼女の表情があまりにも悲痛なもので、我慢できずにチラリと振り返りその背中を盗み見る。
「…ほら!杏寿郎!」
そんな俺の腕をしょうこさんが強く引き、
「…あぁ」
今はそれに従う他ない俺は、力無くそう答えた。
その直後に聞こえた、
「…っ嘘つきー!!!」
彼女のその悲痛な叫び声に、
すまない。今日一日。今日が終わるまでは…。
そう心の中で言い訳を繰り返しながら、痛みを感じるほど強く、下唇を噛んだ。