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鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】


迎えた土曜日。


この日は彼女、しょうこさんと駅で待ち合わせをし、映画館へ向かう約束をしていた。

迷いながらもこうして彼女と会うことにしたのは、この日の彼女の言動をよく観察し、真実を見極めたいと、そう思ってのこと。








待ち合わせの場所に着くと、彼女の、しょうこさんの姿はまだなかった。時計を見ると、待ち合わせ時間の5分前で、決して彼女が遅刻しているわけではないが、そこにも違和感を感じていた。


"杏寿郎さんに会いたくて…いつも早く来すぎちゃうんです"


夢に見る彼女は、そう言って俺よりも早く待ち合わせ場所に来ることが頻繁にあった気がする。


…慌てるな。まだ決めつけるのには早すぎる。彼女には嘘をつく必要も意味もないはずなんだ。答えを出すのは…今日1日を過ごしてからでも遅くない。


いつも早く早くと結論を急いでしまう俺だが、今回のこの件については慎重にならなければならないと、そう思っていた。なによりも、もし彼女が本当に嘘をついており、夢の中の彼女の振りをしていたとしても、


誤って声を掛けたのは他でもない俺だ


そんな罪悪感にも似た感情が、心にこびり付いて離れてくれない。


自身のつま先を見つめそんなことをぼんやり考えていると、


「杏寿郎。お待たせ!遅れてごめんね」


そう言いながら、俯いていた俺の顔を見上げるような姿勢で視界に入ってきたのは


「いいや。俺も先程来たばかりだ」


待ち合わせの相手、しょうこさんだった。


「うふっ。杏寿郎ったら…本当に優しくて素敵。こんな人が私の運命の相手だなんて…私ったら世界で1番幸せ」


そう言って微笑む彼女は、やはり一般的にいえばとても魅力的な女性だ。


「…上映時間までもう30分もない。そろそろ行こう」

「うん!」


そう言って彼女は俺の腕に、その腕を絡めた。

はっきりとそう言った話をしたわけではないが、きっと彼女は俺との関係を所謂恋人同士だと思っているはず。腕を組んで歩くこともおかしくはない。なんとも言えない居心地の悪さを感じてはいたが、俺がその腕を振り解くことなど出来るはずがなかった。



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