第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
「杏寿郎。あなたとて1人の人間です。間違いを犯してしまうことも、それを認めるのに時間がかかってしまうこともあります。むしろ、今までそれがなかったことの方が不思議なのです」
「…そうでしょうか」
「ええ。そうです」
母上はそう言うと、湯呑みのお茶を一口飲み、
「さぁ、杏寿郎。お湯がまだ温かい内にお風呂に入って来なさい。それが済んだら、…"母秘蔵の梅酒"を開けましょう」
ほんのりと口角を上げながらそう言った。
「っあの梅酒を開けて良いのですか!?」
「ええ。ちょうどもうすぐ1年経つので頃合のはず。一緒に出来栄えを確かめてくれますか?」
「はい!もちろんです!」
急ぎ立ち上がり、自分の部屋に向かい着なれた部屋着を手に取った。ふと、仕事用のカバンに入れっぱなしにしていたスマートフォンの存在を思い出し、
しょうこさんから何かメッセージが来ているかもしれない
そう思い、恐る恐る画面をタップした。すると予想通り、彼女からのメッセージが1通。
"土曜日の午後、映画に行って、レストランでディナーしない?"
と誘いが来ていた。画面を見つめ、なんと返事を送ったら良いかとしばらく悩んでいると、
ピコーン
と通知音が鳴り、
"だめかな?せっかくまた会えたんだから、杏寿郎とたくさん一緒に過ごしたいの"
と、追加のメッセージが送られてきた。
この口ぶりからすると、しょうこさんはやはり自分が俺の探している人物だと示していることになる。だがしかし、俺の中には既に、
しょうこさんがなんらかの理由で彼女になりすましている
という一つの可能性が既に生まれてしまっている。
その真偽を確かめたい。そう思った俺は、
"映画とディナーだな。午前は部活があるが2時頃からなら問題はない"
と返事を送った。するとすぐに
"やったぁ!楽しみにしてる!大好き!"
と返事が来た。
その返事が、俺の心にモヤモヤと黒い何かを作り出す。そのままメッセージを読むだけ読んで、座卓の上に置き
「…風呂に入らねば」
部屋着を手に持ち風呂場へと向かった。
風呂から出て、母上お手製の極上の梅酒を口にすると、早朝からの仕事の疲れもあってか、あっいう間に睡魔に襲われ、俺は久しぶりに、居間で朝を迎えてしまった。