第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
「ただいま戻りました!」
家につき、玄関を開けると、千寿郎が洗濯物を持って歩いている姿が目に入った。
確かめたい。
そう思った俺は、
「千寿郎!聞いてくれ!」
今日あった出来事を、とても嬉しいことのように装いながら報告した。本来で有れば、本当に、心から嬉しいことのはずだったのに、今はどこかそうも思えなくなって来ている。
そんなはずはないんだ。
けれども、俺が予想した通り、千寿郎も、宇髄と同じように、再会を共に喜んでくれるどころか、明らかに困惑した表情で俺を見ていた。
遂には、必死な表情で何かを言おうとしていた。けれどもその言葉は、
「杏寿郎、瑠火が夕食を温め直し待っている。早く手を洗って居間に行け。千寿郎、話がある。それを置いたら俺の部屋に来なさい」
と、突如俺と千寿郎の会話を遮るように発せられた父上の言葉によって遮断された。
その話は終わりだ
父上はそう言わんばかりに、俺たちの方にいつもよりも鋭い視線を送ってくる。本音を言ってしまえば、千寿郎のその言葉の続きを聞きたかった。しかし、父上の様子からして、恐らくそれを許してくれそうにはないし、母上を待たせるわけにもいかない。
「千寿郎、続きはまた後で聞いてくれ」
作り笑いを浮かべ、千寿郎にそう告げ俺は洗面所へと向かった。
手を洗い、ふと正面にある鏡に視線をやると
「…情けない顔をしているな」
普段よりも、力のない自分の目と目が合った。
こんな顔をしていてはダメだ。
そう思い、冷たい水で顔を洗うと、ほんの少し心の迷いが晴れた気がした。そんな"気がした"だけだ。
「何か悩み事ですか?」
夕食を食べ終え、食後のお茶を飲んでいると母上が自分の分のお茶を持って俺の正面に座った。
「…悩んでいるように、見えるでしょうか?」
「ええ。少なくとも、私にはそう見えます」
「…そうですか」
こんな風に悩んでしまっていることが、そもそも間違いなんだ。
「母上」
「はい」
「俺は…とんでもない過ちを犯してしまったのかもしれません」
認めるわけにはいかないと思っていた事実も、母上の真っ直ぐに自分を見据えるその瞳を見れば、不思議と認められるような気がした。