第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
俺がそう告げたのにも関わらず、宇髄はまだその手を離す気配がない。お互い無言のまま、睨み合う時間がしばらく続く。
「…煉獄さんよぉ…」
沈黙を破ったのは宇髄だった。
「…なんだ」
「女って生き物の中にはなぁ…嘘をついてでも、何かを、誰かを、欲しいって思う奴もいんだよ」
「そうか。だが彼女はそんな人間じゃない」
彼女の目は、間違いなく俺に好意を抱いているそれで、彼女は確かに自分が俺が探していた人物だと言っていた。
「何故、彼女が嘘をつく必要があるんだ?なにを根拠にお前はそんなことが言えるんだ?これ以上話しても時間の無駄だ」
力の限り腕を振り、
バッ
と、宇髄の手を振り解いた。
宇髄が俺の手を再び掴む様子はなかったが、未だに"納得がいかない"と言う顔で俺のことを睨んでいる。
「では、また明日」
そう言って宇髄に背を向け歩き出した俺の背中に、
「…後悔しても、知らねぇからな」
宇髄がそう言ったのが聞こえた。
そんなもの、する筈がない。
待ち合わせの場所に着くと、連絡が来ていた通り、そこには既に彼女の姿があった。
やはりあの後ろ姿…間違いない。宇髄は何故、あんな事を言ったのだろうか。きっと虫の居所でも悪かったのだろう。
そんなことを思いながら、急足でしょうこさんに近づくと、俺の足音に気がついたのか、彼女がパッと振り向き
「…杏寿郎!」
俺の名を呼びながら、満面の笑みを浮かべた。
その時、
とてつもない違和感を感じた。
彼女は普段、俺のことを
"杏寿郎"と
呼んでいただろうか?
思わず足を止めてしまった俺に、満面の笑みを浮かべた彼女が走り寄ってくる。
「お疲れ様!杏寿郎に会いたくて会いたく…仕事の最中もずっとあなたの事を考えていたの!」
彼女は俺の腕にその腕を絡め、甘えるように俺のことを上目遣いで見上げてくる。その姿は、確かに可愛らしく、女性らしい魅力をとても感じた。
「…そうか!俺も君に会いたいと、ずっと考えていた!」
「嬉しい!ねぇ!お腹すいたし、早くご飯食べに行こう!」
彼女は、こんな口調で、俺に話しかけていただろうか。
"後悔しても、知らねぇからな"
先程の宇髄の言葉が一瞬頭を掠めた。