第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
「…っすずねさん!」
千寿郎は、そんなすずねに駆け寄り
「僕が…僕と父上が…必ず何とかします!だから…泣かないでください…」
そう言いながら、すずねの身体に背後から抱きついた。もちろんそれは男女の愛だとかそう言った類のものではない。言うなれば、"家族としての愛"だ。俺はそんな2人の様子に、左手を千寿郎の背中に、右手をすずねの頭に置いた。
「大丈夫だ。俺が必ず、杏寿郎の目を覚まさせる。だから、お前ら…そんなに泣くんじゃない」
「「…はい」」
「おじゃましました」
あの後、しばらく話をした後
杏寿郎さんに会ってしまったらどうしていいかわからないから
と、悲しげに微笑むすずねを引き止めることなど出来るはずもなく、俺と千寿郎はすずねを見送るため、門の外まで来ていた。
「また来てくださいね」
「いつでも来い」
俺と千寿郎がそう言うも、すずねは曖昧な笑みを浮かべるだけで、何も答えようとはしない。
「それじゃあまた」
その言い方は、到底また来るとは思えないような言い方だった。
「…っやっぱり駅まで送ります!」
「え?いいです!大丈夫です!大人ですから!」
「そんな事を言って。さっきフラフラと連れていかれそうになっていたじゃないですか」
「なんだと?それは本当か?」
「…っそれは…あの時は…」
その時、フと背後から視線を感じたような気がした。
…これは…
「千寿郎。やはりすずねを駅前まで送って来なさい」
「はい!」
「えぇー!本当に大丈夫ですから!ね?」
「遠慮は無しです!父上!行って参ります!」
「あぁ。頼んだぞ」
千寿郎はすずねの言葉を無視し、すずねの背中を押し、楽し気に駅の方へと向かって行った。
「随分と早いお帰りだな」
ゆっくりと振り向くと
「…ただいま戻りました」
「彼女とデート、ではなかったのか?」
杏寿郎は瞳が溢れんばかりにその目を見開き、
「…どうしてそれを?」
俺にそう尋ねて来た。
「…さぁな」
杏寿郎は眉間にグッと皺を寄せ、
「…彼女のことを教えてください」
すずねと千寿郎が去って行った方向を見つめながらそう言った。