第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
けれどもすずねの顔は依然として悲しげで、本来の柔らかく温かい笑みを見せてくれる様子はない。
その切なげな表情に、思わず左腕を伸ばし、
「…いい大人…なんですけど」
その丸く、形のいい頭を撫でしまっていた。
「…自分の子どもは、どんなに大きくなっても子どもだ。自分のことに無頓着すぎる馬鹿な娘は…特に心配で困る」
すずねは俺の言葉に目を丸くすると、
「…嬉しい」
そう言って本来の笑顔を見せてくれた。
すずねの頭から手を離し、
「大体の話は、千寿郎から聞き把握している。最近杏寿郎は、中々はっきりと思い出すことの出来ないお前のことを考え、焦っていたように見えた。だからきっと、きちんと確かめもせずその女性をお前だと勘違いし、声でもかけてしまったんだろう」
今度はすずねの肩に、なるべく優しく触れる。
「…さっきの杏寿郎さんの顔…なんとなくですけど…私の事を…認識してくれているような気がしたんです…」
「杏寿郎に会ったのか!?」
驚き俺がそう尋ねると、ジワリと目に涙を浮かべ
「…彼女と…デート…しているようでした…」
目を伏せそう答えた。
「…っ…あの馬鹿息子が…!」
本来杏寿郎は、頭が良く、それに伴う判断力も十分にある。だが、恐らくすずねに関することでは、そうもいかないこともあったはず。杏寿郎にとってすずねは、そんな部分も晒せる、唯一の相手だったはずだ。
「…尻を…引っ叩いてやるしかないな…」
独り言のように呟いた俺の言葉が耳に届かなかったのか、すずねは
「…え?」
と言いながらその首を傾げている。
「いい。こちらの話だ」
俺がそう答えると、すずねはいまいち納得がいっていないように見えたが、それ以上聞いてくる事はなかった。
「…父上、すずねさん。お茶です」
茶托を置き、千寿郎が先程入れてきてくれたお茶の入った湯呑みと、ひと口で食べられてしまいそうな小ぶりなお饅頭を置いてくれる。
「…ありがとう。早速いただくね」
そう言って湯呑みを手に取り、それを一口口に含んだすずねは
「…これも…変わらない…っ…」
そう言って、ボロボロと泣き始めた。