第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
「お前は何も変わってないな」
玄関から縁側へと移動し、俺とすずねは中庭を見ながら隣り合い座った。千寿郎は茶と茶菓子を持ってくると、張り切って台所へと行ってしまい、今はすずねと俺の2人きり。
「そんなことはありません!…そう言うのであれば、槇寿郎様だってそうではないですか」
すずねは照れ臭そうにそう言いながら笑っていた。けれどもその後、フッとその表情を不安気なものに変え
「…あの…、瑠火様…奥様は…外出中…ですか?」
そう尋ねてくる。
「あぁ。そうだ」
何故そんなにも不安気に瑠火の事を聞いてくるのか、俺にはいまいちわからなかった。
「…そうですか」
ホッとしたようにそう言ったすずねに、
「瑠火に…会いたくないのか?」
思わずそう尋ねてしまう。俺のその問いに、すずねは慌ててこちらに顔を向け、
「…っ違います!違うんです!」
そう言うと、悲しげにその視線を下げる。急かさないほうがいいと思い、俺はすずねの言葉の続きを静かに待った。
「……会いたい…会ってみたいです…。でも…今の私は…杏寿郎さんの婚約者でも…恋人でも…知り合いですら…ないので「馬鹿な事を言うんじゃない」っ!」
静かに待ったはずのすずねの言葉を、俺は思わず遮る。
「例え今、あの馬鹿息子がお前のことを認識できていなくとも、必ずその時は来る。お前があんなにも踏ん張り、杏寿郎の為にと前を向いて戦ってきたあの時間が、無駄になるはずが無い。いや、そんな事は俺が許せない」
「…槇寿郎様…」
すずねはその瞳に涙を浮かべ、それは今にも溢れ落ちてしまいそうな程だった。
「僕も同じです!」
いつの間に戻ってきたのか。声のした方に振り向くと、3つの湯呑みと茶菓子をのせたお盆を持った千寿郎の姿がそこにはあった。
千寿郎は縁側の邪魔にならない位置にそのお盆を置くと、
「兄上のことは…僕が、父上が、必ず何とかします!だからすずねさん!どうか…どうか兄上のことを諦めないでください!」
千寿郎はすずねの右手をその両手でギュッと握りながら、まるで訴えかけるかのようにそう言った。