第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
千寿郎はそれを同じように両手で受け取った。
「…布を取っても…良いでしょうか?」
「…っはい。もちろんです」
千寿郎はその返事を聞き終わるや否や、何かを包んでいると思われる布を丁寧に外し出す。俺もすずねが千寿郎に渡すようにと託したそれが、一体何なのか気になりその隣へと移動した。
ハラリ
と全ての布が取り払われたそれは、短刀のように見えた。その鞘は何かに抉られたようなそんな跡がある。
「…これは、すずねが持っていたものなのか?」
俺が浅野と名乗った隠にそう問うと、
「…すみません。私もその短刀が何なのかはよくわからないんです。でも、すずねさんが戦う姿を見ていた仲間たちは、すずねさんは折れた日輪刀の代わりに、それを使って最期まで戦っていたと…そう言っていました」
ひどく申し訳なさそうな顔でそう言った。
「いや。君が謝る必要はない。…千寿郎、それを抜いてくれるか?」
「…はい」
千寿郎がゆっくりとその鞘を抜と、
「…っこれは…」
見えてきたのは、どこか見覚えのある刀身だった。
「…っ父上!これは…兄上の!」
「…そのようだな」
杏寿郎の日輪刀は、遺品としてここに戻ってきはしたが、刀身が少ししか残っておらず、無くなった部分がどうなったかなんて少しも気にしたことはなかった。
「…成る程な」
きっとすずねが、何らかの方法でそれを手に入れ、刀鍛冶にでも頼んでこれを作ったのだろう。
すずねはよく、自分の左胸の下、ちょうど心臓がある部分をぎゅっと握る癖があった。いや、それが癖なのだと思っていた。
「…違ったんだな」
この短刀を見て、初めてあの行動の意味を真に理解した。
「…すずねさん…ずっと…これを掴んでいたんですね。…僕は、すずねさんが、こんなものを持っていることすら…知りませんでした」
「…俺も…同じだ」
何かをずっと肌身離さず持っており、それを心の拠り所にしていることは何となくだがわかっていた。だがそれは、杏寿郎からもらった簪だとか櫛だとか、そう言ったものを持っているのだと思っていた。
「もっと…色気のあるものを持て。…馬鹿娘が」
それがあまりにも、すずねらしく、胸の奥から熱い何かが込み上げてくる。