第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
玄関に到着すると、そこには先程帰って行った隠とは、別の、歳の若そうな女の隠の姿があった。よく見ると、その隠の肩は上下に揺れており、急いでここまで来たのだなと言うことが伺い見える。
その者は俺と目が合うと、深く丁寧に頭を下げ
「煉獄様。お忙しい中、連絡もなく訪問しました事、お許しください。私、隠の浅野と申します」
「浅野さん。ここには一体何のようで?」
俺のその問い掛けに、彼女は一瞬瞳を大きく揺らした。けれども、スゥハァっと静かに深呼吸をすると、
「…柏木さんは…ここにお戻りなんですよね?私はここに、柏木さんからの言葉と、届け物があって参りました」
そう淡々と、まるで自分の哀しみを押さえ込むようにしながらそう言った。
思ってもみなかった、浅野と名乗る隠の言葉に、
「…すずねからか!?」
思いの外大きな声が出てしまい、目の前の彼女の肩がビクリと大きく揺れた。
「…っ驚かせてしまい申し訳ない。とにかく、中に入ってくれ。すずねも…先程戻ってきたところだ」
「…っ!」
浅野さんは大きく見開き、その後すぐに顔をぐにゃりと歪めた。けれども、
「…はい。失礼します」
丁寧にそう言いながら履き物を脱ぎ、それを揃え、
「こっちだ」
そう言ってすずねが眠っている部屋へと共に向かった。
千寿郎は俺が客人を連れてきたことに気がつくと、すずねに覆いかぶさっていたその身体をピンと伸ばし
「…すずねさんに、会いに来てくれた方ですか?」
と、涙声でそう言った。
「…あぁ」
「…っあの!千寿郎様!」
浅野と名乗った隠は、千寿郎の前まで足速に移動し、ゴソゴソと肩からかけていた鞄に手を入れ、布に包まれた細長い何かを取り出した。そして自分で取り出したそれを、目にすると、顔を再びぐにゃりと歪め、泣き出しそうな顔を見せる。けれども、グッと自らの下唇を噛むと、顔を上げ、
「…柏木さんから…千寿郎様にお渡しするようにと…預かりました」
両手で大切に持ったそれを
「…すずねさんが…僕に…?」
千寿郎へと差し出した。