第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
この娘は、決して身体も、精神力も、強いと言える人間ではなかったと思う。だがとにかく、杏寿郎のことを深く愛し、杏寿郎亡き後も、その愛をなんとしても貫こうとしていたように見えた。そんな姿は、はたから見ていると痛々しいと思ってしまうほどだった。それでも本人は、それが当たり前の事のように振る舞っていた。俺はそんなすずねの事を、いつしか、自分の娘を見ているような、そんな目で見ていた。だから、
この長い戦いが無事に済んだら、養子として迎えてやるのも良い
そんな風に考えていた。そうすれば、杏寿郎の嫁として迎えることは叶わなくとも、すずねを名実共に煉獄家の人間にしてやれると思った。
だが、
「…っ…すずねさん…っ…どうして……っ…どうして…」
このどうしようもない娘は、傷だらけの身体で、血まみれの隊服といつもの羽織を身につけて、満足そうな顔をしながら、その命の活動を終えた姿で戻ってきた。
「…すずねさん…すずねさん…」
千寿郎は、何度もその名を呼び、泣きながらすずねの魂を失ってしまったその身体に覆いかぶさっている。
「…柏木さん…帰らせてあげられる場所が他に無くて…。ずっとこの家に身を置いていたと聞いたので、こちらに連れてきてしまったのですが…」
そう申し訳なさそうに言う隠に、
「…いい。この娘は、…すずねは、確かにこの家の人間だ」
そう答えないはずがない。
「ありがとうございます。…それでは、俺はこれで」
まだまだ帰るべき場所に帰してあげたい者たちがたくさんいるのだろう。頭を深く下げ、その隠は帰って行った。
千寿郎と、話をしなくては。
口を開こうとしたその時、
「ごめんください」
女性の声が玄関の方から聞こえてきた。
こんな時に一体誰だ。
そう思ったものの、無視するわけにも行かず
「行ってくる」
そう千寿郎に一言告げ、玄関へと向かった。