第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
そんな風に僕が"待つ"と決めたばっかりに、すずねさんにこんなにも悲しい顔をさせてしまった。
僕は、そんな選択をしてしまった自分が悔しい。そして、生まれて初めて、尊敬してやまない兄上に怒りの感情を抱いていた。
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「すずねさん。…この後、お時間はありますか?」
「え…?特に…用事は無いけど…」
私がそう答えると、千寿郎さんはスッと立ち上がり、
「今から、家に来てはもらえませんか?」
「…っえ?…家って…もしかして…煉獄のお家?」
「はい。父上に会ってもらいたいんです」
「…槇寿郎様に…ですか?」
「はい!」
そのあまりに急な提案に、私はとても戸惑い、なんと答えて良いかわからずに膝に置いてある自分の手をじっと見つめてしまう。
「…父上も、ずっとすずねさんに会いたがっていて、今回のこともとても心配されていたんです」
千寿郎さんのその言葉に私はパッと顔を上げ、
「…え?槇寿郎様も…今回のこと…ご存知なんですか?」
私がそう尋ねると、
「…はい」
千寿郎さんは少し悲しげな笑みを浮かべながらそう答えた。
千寿郎さんのそのお誘いはとても嬉しいと感じたし、槇寿郎様にもお会いしたいとも思った。けれども、
もしかしたら杏寿郎さんが帰ってくるかもしれない
そう思うと怖くてたまらなかった。それと同時に、先程の2人の姿が思い出され、私の胸はぎゅーっと苦しくなる。
「…兄上は、母上に夕飯は外で済ませてくるから自分の分はいらないとそう言っていました。だから…早めに帰れば兄上と会うことはないはずです」
「…そっか…」
とても複雑な気持ちだった。杏寿郎さんが帰ってこなければ、槇寿郎様にお会いすることが出来る。けれども、それは杏寿郎さんがあの女性とデートをしているからこそ出来ることで、そんな姿はこれ以上想像もしたくなかった。
「…父上なら…何かいい案を出してくれるかもしれません!だから…お願いです!僕と一緒に来て下さい!」
必死でそうお願いしてくる千寿郎さんに、
「…わかった…一緒に行こう」
私は決心を固め、煉獄家にお邪魔する選択肢を選んだ。