第20章 神様の意地悪に抗う愛で【暖和if】
誰かが悲しい気持ちになっている時は、その気持ちをみんなで分かち合い、共に悲しみ、そして励まし合った。
継子として、その担った役割を果たすためと奮闘するすずねさんに稽古をつける父を、時には手伝い、時には共に稽古をつけてもらった。
兄上のお下がりの羽織が破けてしまったと泣きながら任務から戻ったすずねさんの為にと、すずねさんの大好きな甘味を買いに行ってくれた父上の優しさも。破けた部分を僕が元通りに近い状態に縫ってあげた時のすずねさんのあの笑顔も。
全て兄亡き後に積み上げた、僕たちの3人の大切な時間だ。
「あの時間は…っ…すずねさんにとって、後回しにするような…そんな時間ではなかったはずです!!!」
気がつくと僕は、泣きながら父上にそう訴えかけていた。
父上は立ち上がり、僕の隣まで来ると、
「落ち着け千寿郎。お前の気持ちは俺が1番よくわかっている」
そう言いながら、僕の背中を優しく撫でてくれた。
「…っ…すみません…つい…」
「気にすることはない。だが千寿郎、もう少し、もう少し待ってやってはくれないか?」
「…待つ…というのは…?」
「俺や千寿郎が、杏寿郎に話をすることは簡単だ。あの組紐を見せれば、杏寿郎も何か思い出す可能性も高い。だが、俺は…あいつが自力ですずねを思い出し、自らの意思ですずねを迎えに行くのを…もう少し待ちたいと思っている」
「…それは…どうしてです?」
僕がそう尋ねながら父上の顔を見上げると、
「…あいつらの"愛"を信じたい…そんなところか?」
逆にそう尋ねられてしまい
「そのようなこと、僕に聞かれても困ります」
気がつくと、笑いながらそう答えていた。
「…そうだな」
父上も、そう言いながらその顔に笑みを浮かべた。